『秘密の代償』
作:岸田國士
発表:1933年3月1日


某省の高級官吏・生田家が夏の別荘で出会う盗難事件。
冒頭で小間使のてるがタンスから結構な金額の現金を盗難。暇乞いをして逃亡を企むが、生田家の夫人・数子の勘違いした追及に会い、夫の是則・息子の是守と逢い引きの約束をする羽目になる。
人並み外れて容姿が良い、とト書きにあるてるがその場その場で態度をかえ、生田家を混乱の渦に巻き込む。

冒頭からてるの盗難という秘密は観客とだけ共有され、共犯者の関係が築かれる。
その後のてるは夫人・夫・息子とそれぞれ二人で話をすることになるのだが、ここのてるをどう読むかで、物語の雰囲気が大分変わる。
美しさゆえに受難する小間使の物語なのか、美女にまんまと出し抜かれる痛快詐欺ストーリーなのか、皆がバタバタするコメディなのか。
演出次第で結構印象が変わる戯曲。
本当に、てるの心理状態が捉えづらい、というかどうとでも読めるように書いてあるので、「こう」と決めていかないと人格が破綻したキャラクターにもなりそうなくらい。

「こう」と決めきらない曖昧さが一つの味わいな岸田國士戯曲の中でも、とりわけどうとでも読める不思議な戯曲。

てるの盗難という秘密を観客が共有していなかったら、結構ハラハラした展開になるのかもしれないが、もうあからさまに知っちゃってるので、どんな真剣さも嘘にしか見えなくなってくる。
そういう意味では観客も、「秘密の代償」を支払う事を余儀なくされているのかもしれない。

青空文庫にも収録されているので、ご興味ある方は読んでみて下さい。そして、どんな物語として目に映ったか是非教えて下さい。



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【ネタバレあらすじメモ】

人物
生田是則 四十九
妻・数子 四十六
息子・是守 二十五
小間使てる 二十一

一
生田家は海岸の別荘へ来ている。
妻の数子と若い小間使のてる。てるは引き出しから札束を取り出し懐にいれ、暇を乞う。自分はこの家にはふさわしくないから、と。数子はてるをかわいがっているので訳を聞き出そう、引き留めようとするか、てるは一行に理由を言わない。やがて数子は、息子の是守との間に何かあったのでは?と問う。それとも夫の是則とか、両方か、と。てるは答えない。数子は男二人に「今晩九時、会いたい」という手紙を出すように言いつける。真相を確かめるためだ。

二
呼び出しの場所に是守と是則が現れる。二人はてると待ち合わせのつもりだから、必死にお互いを帰らせようとするが、結局是則が去る。
てるがやってくる。是守は、自分に気があるのかなんなのかと問う。てるははっきりとした事は言わない。是守はてるの肩に手をかけようとするが、走り去る。

三
是則の居間。数子が来て、是守とてるが会っている事を告げる。是則は「それで自分が助けに呼ばれたのか」と手紙を見せる。数子は「なぜ自分に言わなかったか」と詰める。数子はなんだかんだ言いくるめられ退場。
てるが来る。しばし話した末、是則はてるの肩を抱く。途端に数子がてるを呼ぶ声。二人は離れ、てるは出ていく。

四
翌朝、食卓を囲む家族はてるが姿を消したことについて話す。是守は自論を展開した末に去る。
駅から電話が来る。てるが大金を落としたのだが、その金は主人に貰ったというのだが、事実か、と。是守はたしかにやったものだ、と片付ける。訴えでもしてとんでもない事を口走られてはかなわない、と。悔しがる数子。夫婦は互いに秘密を抱えたままである。

幕