『動物園物語(一場の劇)』
原題:THE ZOO STORY
作:エドワード・オールビー
発表1958年
「人間はなんらかの方法で何かとかかわりを持つことが必要だ」
二人芝居、と聞いて私が一番に思い出すのがこの作品だ。
公園のベンチに腰掛けて本を読む、中流階級っぽい男ピーター。
彼のそばにふらっとやってきて「動物園に行ってきたんです」と声をかける男ジェリー。この出会いから始まる物語。

私が大学生の頃に、「芝居うめぇなぁ」と憧れていたM先輩とO先輩が上演して、私はその様子を客席で観ながら「いつかやりたいなぁ」と思っていた戯曲である。

ただ、「訳わかんねぇ話だな」とも思っていた。ジェリーはとにかくよく喋る。初対面のピーターにぶしつけな質問を投げかけまくるし、自分語りをとんでもない量する。
全体のセリフ量で言ったら、7:3か8:2くらいでジェリーが喋る。

コミュニケーションの断絶とか、そんなことをテーマにしてあるっぽい。人と話をしたいのに、うまく人と繋がれない。
という感じだけど、さすがに「そんなことある?」と大学生だった私は思っていた。

ところが数年前。コロナ禍がまだ大きな顔をしていた頃。私は「動物園物語ほどではないけど、動物園物語っぽいこと」を経験する事になった。
某ブックオフで買い物をしていたら、「漫画、好きなんですか?」と見知らぬ男性に声をかけられたのだ。
不信感から「まぁそこそこです」と返事をしその場を去ると、その男性は後を着いてくる。そして「アイドル好きなんですか?」「映画好きなんですか?」と、ブックオフの商品に関連した質問を投げかけてくる。
終いには年齢や居住地まで。
閉店間際で急いでいたので、私は「レジ行ってきます」と足早に歩き出す。
会計後も声をかけられたらどうしよう…とヒヤヒヤしながらレジを後にするが、その後彼の姿を見ることはなかった。
「ここまでは来ないんだ…」
安堵感と共に、少しだけ寂しい気持ちになったのだ。

帰り道、ふと思う。この感じ…どこかで…。
私がもうちょっと「話そう」としていたら、「動物園物語」ならぬ「ブックオフ物語」が開幕していたのかもしれない。

コロナ禍。人と人の繋がりが極端に希薄になった時代に、あの彼は、「ただ人と話したかった」だけなのかもしれない。
こんな経験を経て再度この『動物園物語』を読むと、「訳分かんねぇ」と思っていた気持ちが「あるかもしれないよねこんなこと」に変わっていた。不思議なもんである。

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【収録】
『エドワード・オールビー全集2』
訳:鳴海四郎
昭和49年/早川書房

ハヤカワ演劇文庫
『エドワード・オールビー(1)』




【ネタバレあらすじメモ】

公園のベンチで本を読んでいるピーターに、ジェリーが話しかける。
「動物園へ行ってきたんです」と。
唐突に話しかけられるも、なんとか会話をしようとするピーター。
ジェリーは動物園について「明日のニュースで分かる」など謎めいた返答をする。
家族、仕事、などなどピーターの個人情報を色々と聞き出すジェリー。
ピーターが会話をしようと質問をすると、とんでもない量の情報が返ってくる。
ジェリーはピーターが「動物園について」気になっているのを良い事に話を引っ張る。
やがて、犬の話。目的を達成するためには時に遠回りが大事、といい、同じ建物に住んでいる狂暴な犬に毒を盛った話をする。
ピーターはだんだん聞くのが嫌になってくる。なおも熱を込めて犬の話。催眠術をかけるようになってきて、話は終わる。
ジェリーはベンチに腰掛ける。ピーターをくすぐり始める。
動物園の話をしつつ、ピーターをベンチからどけようと殴り始める。ベンチが欲しいのだ、と。
抵抗するピーター。ベンチの争奪戦となる。ピーターは警官を呼ぶが来ない。来たとしても異常者は現状ピーターの方だ。
戦いの決意。ジェリーはナイフを取り出しピーターの足元に投げる。それで戦えと。
引き続きピーターを罵り刺激するジェリー。
ピーターがナイフを取り構えると、そこに飛び込むジェリー。
ナイフが刺さり致命傷を負うジェリー。ピーターはパニック。ジェリーは言う。動物園に行った後、誰かと話をしたくなった、逃げられるのが怖かった、と。明日の朝ニュースで見るのは誰の顔かもう分かったろう、あんたはもうこのベンチには来られない、と。
早く逃げるよう促すジェリー。ピーターは逃げ、ジェリーは息絶える。
幕。




ちなみに大学生の頃に書いたこの戯曲に関する感想はこちら