『ままならないから私とあなた』
著:朝井リョウ
2019年/文春文庫

Audibleにて。

『レンタル世界』『ままならないから私とあなた』の2篇を収録。
朝井リョウ先生の本はどれも心にグサッとささるのだが、今回もまたグサリだった。

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『レンタル世界』では、「人の繋がりこそが一番大切。恥ずかしい姿も見せ合ってこそが人付き合い」という主義の男が主人公。
その男が結婚式場で一目惚れした女性が、実は「レンタル業」で派遣されてきた「レンタル友達」だった。
男は彼女を「レンタル彼女」として雇い、本当の人付き合いという物を教えようと奮闘する…というストーリー。
会って話す過程で、「レンタル業」そのものを「悲しい仕事だ」と否定し始める男。自分の人付き合いのように、本当のコミュニケーションを教えてあげたい…と。
一方彼女はドライな視点で、「そういう事を必要としている人がいるのだ」と取り合わない。
価値観と価値観がぶつかり合って、足場がガラリと崩れていく。
ある価値観を「それってどうなの?」と切り崩していく朝井先生の腕がキラリと光る短篇だった。スリラー的でさえある。

一方『ままならないから私とあなた』は、何事にも効率を追い求める薫と、アナログ思考の雪子が主人公。
子ども時代から大人になるまでの二人を描きつつ、考え方の違いが決定的な溝を浮き彫りにする様を描く。
音楽家になりたい雪子と、彼女の夢を応援したいと様々なデジタル技術を研究する薫。
小学生からの男友達と交際する雪子と、マッチングアプリで早々に結婚し別居婚をする薫。
二人は主義の違いからぶつかり合いつつ、お互いを理解しようとしつつの、ままならない関係を続けてゆく。
どちらの主張も、大切な友達だからこそ、分かってほしいからこそ、ともすれば押し付けがちになってしまう様がヒリヒリする。
特に、昨今のAI技術の進化について論ずるような、
・人の暖かみがあればこそ。
・新しい技術には新しい可能性が宿る。否定するなら電車にも乗るな。
というぶつかり合いは迫力があった。
いや、どっちの考えもそれはそれで分かるけども…仲良くしてー!となる。

雪子が音楽家を志しているということで、特に芸術分野のAI進出にも話が展開され、それに対する薫の論には「それはそうなんだけど…」という気持ちにさせられる。
私もナレーターやってる身として、AIナレーターのクオリティの高さにはびっくりするものがあるので、複雑な気持ちで読んだ。

この衝突は決定的な断絶として描かれるが、終章で暖かく回収され、少しだけ気持ちが和らぐ。

本当にままならない一冊だった。
人のドロドロとした感情に触れた先に新しい世界を見せてくれる朝井作品。今後も追っていきたい。