『フレッシュ・デリ』
原題:De gronne slagtere
監督:アナス・トマス・イェンセン
製作:2003年/デンマーク
上映時間:100分
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『〈北欧の至宝〉マッツ・ミケルセン生誕60周年祭』にて日本初上映となったデンマーク映画。

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お肉屋さんを開業したスヴェン(マッツ・ミケルセン)とビャン(ニコライ・リー・カース)は、うっかりお肉の冷凍室に電気屋を閉じ込めて死なせてしまう。(うっかりが過ぎる)
さらに、一時の感情からその電気屋の死体をお肉として店で売ってしまうと、その肉が評判になり、「人に愛されたい・認められたい」承認欲求から次のお肉を探し始めてしまう、という物語。

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ストーリーだけ見ると、ちょっと前に話題になっていた映画『ヴィーガンズ・ハム』(2021年)を連想するが、『ヴィーガンズ・ハム』がブラックコメディに徹していた所と比べると、この『フレッシュ・デリ』は似て非なるものだった。
北欧・デンマークのどことなく薄暗いムード。肉屋として愛される事が初めての成功体験になり暴走を始めるスヴェンと、それをどうにか制止しようとしつつ人肉の解体を手伝ってしまうビャン。
中盤ではビャンの恋愛と、複雑な肉親関係が描かれて、やむにやまれず人肉を売り続ける二人の様子が、コメディタッチでありながらも苦悩も合わせて描かれる。
映画の途中から「ヴィーガン狩り」を始めた『ヴィーガンズ・ハム』の夫婦よりも、人間ドラマがしっかり描かれている。
その分、コメディ的ではあるけれど、どことなくシュールで不条理な世界観が作られていて、観るものを「どことなく居心地の悪い世界」にしっかり固定してくれる。
「ちょっと、何してんのスヴェン!?ダメダメ!あー、やっちゃった…もう…」と、スヴェンの行動に振り回されるビャンの視点に寄り添って観やすい物語のように思う。

スヴェンを演じるのは北欧の至宝・マッツ・ミケルセン。世界のイケオジ最高峰に輝くマッツは、至宝とは程遠い妙な髪型、キレやすい暴走しやすい危うい人格、それでもどこか愛らしさが共存する、至宝というか珍宝な演技を見せてくれる。
こんな人、絶対近くにいたくない。でも遠くから眺めていたい、というタイプのスヴェン。
奥さんに離婚を切り出されれば、ほんとは離れたくないだろうに罵声を浴びせかけ「捨ててやった」とのたまう男の、暴力的な不器用さ、その裏に激しく存在する愛される事への渇望とナイーブさが、身に纏うように立ち姿・声のキレ、無表情さに現れている。
さすが至宝。至宝の珍宝演技をスクリーンで堪能したいなら、早めにこの生誕祭に足を運ぶのがオススメだ。

生誕祭ではこの『フレッシュ・デリ』を含む7作品が上映されていて、日本初上映のものもいくつか。
この妙な映画『フレッシュ・デリ』の監督の、他の監督作も含まれている。絶妙なユーモアと不安感の漂うイェンセン監督作に、さらに触れてみたい欲求も起きる。

満たされないお肉屋さんと、文句を言いながらも付き合ってしまう相棒。
二人の運命は、ある意味予想を裏切る展開をたどり、「それでいいのか!?」的感情も生まれつつ、変に暖かいラストを迎える。
苦悩しながらも全力疾走で走り続ける、止まれない二人のシュールなコメディ。
見応えたっぷりの100分だった。