『TRUTH[真実]「俳優養成」と「キャラクター創造」の技術ペルソナ、ニード、トラジックフロー』
著:スーザン・バトソン
訳:青山治
2020年 而立書房


演技の本。昔はこういうの好きで読んでたけど最近はあまり読まなくなったなぁ…と思いつつ、図書館で見かけて面白そうだったので手に取りました。
演技について書かれた本と言えば、スタニスラフスキーの『俳優修業』をはじめとして、本当に色々な種類の物が出ていて、「なるほど、こんな考えで演技を組み立てていってるのか」というのが知れて面白いわけなんですが。

この『TRUTH』は目玉的な考え方として
・パブリックペルソナ
・ニード
・トラジックフロー
というものを扱っています。
これが、とても面白い。
その人が抱える根源的な欲求がニード。愛されたい、とかそういうの。
で、そのニードの対極にあるのがパブリックペルソナ。ニードが満たされない事に折り合いをつけるために生まれる性格的なやつ。愛されたいニードが満たされないと、パブリックペルソナとして「人を遠ざける」性質になる、とか。
で、このニードとパブリックペルソナが衝突することで起きるのがトラジックフロー。ここでドラマが生まれる。困難として人物の前に現れたトラジックフローを、その人が乗り越えられるのか否かでその後の人生が変わってくる。
この考え方が面白い。心理学的なあれなんでしょうかね。

この本の中では色々な映画が例題として紹介されていて、この主人公のニードはこれ、パブリックペルソナはこんなの、そしてトラジックフローとして何々が起きる、と解説がある。
こう説明されてみると「なるほど!その通りだ!」と激しくうなずく私です。
そして、映画とかを観てる時に、あぁ、この人物のニードは…パブリックペルソナは…ふむふむ。なんて考えるようになる。
そうすると、「この映画、これがやりたかったのか!」って事が捉えやすくなってきたり。
もちろん自分がやる際にもとても大きな柱になる考え方だなと思います。スタニスラフスキーだったかな、「超目標」という言葉で、「その人の究極的に成し遂げたい目標を探す」みたいなのがありましたが、ニードはその「超目標」の根源みたいな事なのかもしれませんね。

もちろんフィクションの人物だけでなく、実際に息をして生きている我々にもニード・パブリックペルソナなんてのはあるもので、自分を見つめ直す際の手がかりとしてもおおいに面白い考え方だなと思いました。

この他にも、戯曲の読み解き方・ドラマの構造解析で出てきた「5つのC」というのも面白かった。

★状況(Circumstance)
事実としての状況。
★葛藤(Conflict)
内的葛藤と状況の葛藤。どちらの陣地か。
★危機(Crisis)
危機からは引き返せない
★クライマックス(Climax)
選択。行動が報われるか否か
★結末(Conclusion)
クライマックスを乗り越え、何を失い、何を得るか。

この5つのCによって物語は、特に古典物語は組み立てられている、なんて話、ワクワクしてしまいます。

なにより多くの映画タイトルが例題にされているのがこの本の本当にありがたい点だと思います。
演技の本て結構抽象的な話になりがちな気がしていて、「じゃあその論を実際やるとどうなるのか?」が理想論としか思えないような物もあったりする。
そんな中で、その映画を観れば名優が実践している姿にアクセス出来る、というのはもう、演技の教科書として完璧なのではと思います。
手元に置いておきたい本。

余談ですが、『マトリックス』のローレンス・フィッシュバーンが名優として紹介されていて、ローレンス・フィッシュバーン好きとしてはなんだか嬉しかったのでした。

演技をする方ならずとも、映画をより楽しみたいという方にもオススメの一冊です。

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【目次と内容まとめメモ】

謝辞
序文:ニコール・キッドマン
序章

第1部 ニード、パブリックペルソナ、そしてトラジックフロー

第1章 サークル
★クラス
クラス輪になり、音楽をかけ、中心で一人が演技し、周囲が真似る。それを通して生徒紹介。「演技は感情ではなく、行動」
★感触
人とキャラクターには三つの側面がある。

第2章 ペルソナ
★物語
★仮面
ギリシャの演劇で使われた仮面・ペルソナから、現代のパブリック・ペルソナへ。

第3章 パブリックペルソナ
★ギャングスター
ニード。パルプ・フィクションを例に。

第4章 ニード
★「明日は明日の風が吹く」
『風と共に去りぬ』のニード・守られたい
★真実
ニードはパブリックペルソナの逆にある。
『チョコレート』ハル・ベリー
ニード→愛されたい
パブリックペルソナ→人を遠ざける
など、具体例が示される。
★機能不全
パブリックペルソナが機能不全になるとトラジックフローが露になる。トラジックフローは第三のキャラクターの側面。

第5章 トラジックフロー
★カメレオン
ニードとパブリックペルソナが衝突し、トラジックフローが起こる。『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』
★犠牲者
『モンスター』
★一匹狼
『タクシードライバー』
★沸点
トラジックフローに勝つか負けるかそのままかで、人物の結末は分かれる。パブリックペルソナはニードを隠すもの。
★ツール
役者自身のニード、パブリックペルソナ、トラジックフローを見つめる。


第2部 俳優

第6章 楽器
★熱情を導く
俳優は楽器。その性質は6つに分けられる。
身体性・知性・想像力・感情・感覚の能力・共感力だ。
★身体性
体重変化などでキャラクターに魅力を。
★知性
サラ・ベルナールの、自身の売り出しにかける冷徹な知性。現代の俳優はそれをキャラクターに向ける。
★想像力
「もし〜だったら」
★感情
感情を表に出すのではなく、行動する。
★感覚の能力
全てを鋭敏に受け取る。
★共感力
キャラクターに共感する。責任を持つ。

第7章 子供の遊び
★真実か嘘か
真似ではなく真実を。
★インナーチャイルド
子供の遊びは変身。
★過去から
インナーチャイルドは満たされない感情的ニードの管理人『才能ある子のドラマ』

第8章 ニードの旅
★ペーパー・ムーン
子役。
★偵察
ニードの旅
★かなわぬ夢
役と対話する
★ワーク
ニードを探す

第9章 感覚記憶
★革命
イプセン、チェーホフ、ストリンドベリらの登場。「熱弁するな!芝居がかるな!形にはめるな!」
エレオノーラ・ドゥーゼの登場。
★神秘主義者
ドゥーゼの自然な演技はサラ・ベルナールと対立、議論の的に。スタニスラフスキーは彼女に注目する。
★スタニスラフスキー
ドゥーゼのやっていることを誰でも出来るようになれないか?
★二人の巨人
リー・ストラスバーグとステラ・アドラー。感覚と経験は相互に補い合う。

第10章 個人化
★宿命
役との出会いには宿命的なものがある。
★分離不安
オリヴィエの『嵐が丘』での挫折と成功。
★個人的なこと
感覚に名前をつける。

第11章 感覚の状態
★スタイルを貫く
自身で感じる。
★一般的
一般的なものではなく、自分のものを。

第12章 第4の壁
★舞台と映画
舞台と映画に演技の違いはない。ただ真実を。
★「INTO-ME-SEE」(私の奥底を見せる)
空間と環境と親密に。
★強い防御
親しみのある人や場所を描き、第4の壁をイメージ。
★壁
★電話をかける
話したい人へ電話エクササイズ。
自分をさらけ出す。

第13章 対象物:紛失と発見
★箱の中身
小道具にニードを付加する。
フォレスト・ガンプのチョコの箱。
★尋ねよ、さらば見出さん
紛失した大切なものを探す。
物がニードになる。

第14章 プライベートモーメント
★ワンマンショー
一人でいるかのような。公の孤独。
★人前で孤独に存在する
プライベートモーメントのエクササイズ。誰にも見せないようなことをさらけ出す。
★閉ざされたドアの向こうで
パブリックペルソナが存在しなくなる
★個人のプライベートモーメント
ニードが剥き出しになる


第3部 キャラクター

第15章 キャラクターの歴史
★批判をしない
演じる役を批判しない
★冷血
キャラクターに自らを引き渡す
★歴史の教訓
物語ではない人物を深く見つめる
★あなたもそうするかもしれない
ローザ・パークスについて

第16章 キャラクターのプライベートモーメント
★プライベートな生活
★ローザ・パークス:キャラクタープライベートモーメント
★場所

第17章 キャラクターのフォンコール
★ハロー、私です
キャラクターが話したい人に電話。
★ローザ・パークス:キャラクターとしての電話
電話でニードが明らかになる。

第18章 アニマル
★動物と話す
アニマルワーク。ピタリくる動物。『マグノリア』のトム・クルーズは狐。『ケープ・フィアー』のデ・ニーロは蛇。
★アニムス
皆、近い動物がいる
★遊び
動物として遊ぶ
★音を加える
色んな音を探す
★具体的な動物のふるまいを行う
★動物を立たせる
動物が二本足で立っていると想像する。

第19章 敗北の場所
★「ごまかし、ごまかし」
場所を信じさせる。生きる。
★ワーテルロー(敗北の場所)
敗北の記憶を刻んだ場所。
★敗北の場所エクササイズ
自分とキャラクターの敗北を重ねる

第20章 キャラクターインタビュー
★ホットシート 責任のある立場
キャラクターにインタビューする。
★ローザ・パークス:キャラクターインタビュー
実際にインタビューをしてみると。

第4部 脚本

第21章 古典的な複数のC
★物語の時間
時系列通りにやれるとは限らない
★状況から結論へ
物語の5つの要素
状況Circumstance
葛藤Conflict
危機Crisis
クライマックスClimax
結論Conclusion
★状況(Circumstance)
事実としての状況。
★葛藤(Conflict)
内的葛藤と状況の葛藤。どちらの陣地か。
★危機(Crisis)
危機からは引き返せない
★クライマックス(Climax)
選択。行動が報われるか否か
★結末(Conclusion)
クライマックスを乗り越え、何を失い、何を得るか。
シェイクスピアの『オセロー』、映画『『ブロークバック・マウンテン』に観る諸要素。

第22章 脚本分析
★「どうやって全部の台詞を覚えたの?」
行動を知る
★ビート・バイ・ビート
最小単位、ビート。台詞は他動詞で考える。ビートの働きには5つのカテゴリーがある。
解説
キャラクターの意思
ニードの提示
葛藤の提示
実行
同じものが連続して続くことはない
★解説
「ルーク、私はお前の父親だ」など、事実を伝える台詞。無理に何かをこめてはならない。
★キャラクターの意思
意思は「魅了する」「お世辞を言う」などの行動の動詞でキャラクターの個性を描写する。
★ニードの提示
「明らかにする」「暴露する」などでニードが明らかになる。
★葛藤の提示
内的/外的に「戦う」「妨げる」など、挑戦的・闘争的なエネルギーを含む。
★実行
部屋を出るなどの行動、あるいは「押す」などの人への強い働きかけを伴うもの。

第23章 サイズ
★詳細に見る
『アメリカン・ビューティー』を例にビートの分類
★アンジェラのサイズ
サイズは、シーンの断片。実際に分析。
★レスターのサイズ
レスターから見た分析
★秘密兵器
分析は俳優を能動的にする

第5部 ライフ

第24章 即興で
★スウィング・タイム
楽譜を即興で彩る
★アドリブによる解放
即興は探求

第25章 リアルワールド
★リスペクト
俳優の仕事を知る監督
★最低限
最低限のギャラ、最高の持ち込み
★オーディション
真実を探る
★リハーサル
「位置について、他の仲間の目を見て、そして真実を伝える」それが、フラット。

第26章 ゴールドダスト(砂金)
★ビノシュによるバトソン考
遠慮なく話が出来る人は大切。

第27章 EX-ER ACTOR
★演技に責任を持つ
アマチュアに留まらず、練習。
アマチュアの語源は「愛情から何かを行う人」
★丘
スポーツ選手のように、練習。
★EX-ER ACTORエクササイズ
50個のセリフ。
感覚記憶(◯◯な時)
個人化(あなたを◯◯する人)
感覚状態(感情や味覚、嗅覚など)
感情の虫が這うような感覚という表現が面白い。
★終わりに


参考文献
映画作品目録
訳者あとがき