『命売ります』
著:三島由紀夫
発表:1968年
1998年/ちくま文庫


「いつも自分はこうやって、何かが起るのを待っている。それはまるで「生きること」に似ているではないか」

不意に死にたくなった男は自殺に失敗し、自分の命を売りに出すことに決める。
年の離れた妻を殺して欲しい老人、薬の実験台、吸血鬼を母に持つ少年、スパイ活動などなど、様々な「依頼」をこなしていくうちに、巨大な組織に命を狙われるようになる主人公。

え、三島由紀夫ってこんな作品書いてたの!?というポップでキャッチーな作品。
何も考えずに読んで楽しめる一冊。
三島由紀夫の作品を何か読んでみたい、という方には、入口として結構いいのではないだろうか。
なんとなく「難しそう」と思う作家も、「こんなに読みやすい作品もあるんだ」という物語に出会えると、なんだか少し友達になりやすいような気がする。
作家の色んな作品に触れて作家との距離を縮めていくと、難解な作品にも手を出しやすくなる気がする。
私は三島由紀夫作品の入口は舞台で『金閣寺』(演出:宮本亜門)を観たのが入口で、音楽や身体性を駆使したその魅力を体感させられた。
そこから『近代能楽集』や『殉教』『女神』など(新潮文庫)に触れた。イメージとしては、冒頭をしっかり気合入れて読まないと置いていかれる作家。だと思っていた。
その中で、『殉教』に収録の『スタア』を読んで、「あ、結構読みやすい物も書くんだ!?」と思った記憶がある。
その『スタア』よりも、はるかに読みやすさ・軽快さを感じたのがこの『命売ります』だ。
三島由紀夫特有の飾られた美しい文体でもなく、本当にスラスラと読める。
「楽に書き流した作品」と言う方もいるし、「ここにこそ魂の告白がある」と評する方もいるそうで。
個人的には三島作品は「読むのにエネルギーを使うタイプ」の物が多いと思っていたので、この『命売ります』を読んで大分イメージが変わった。

週刊プレイボーイで連載されていたというこの作品。ポップな展開ながら、後半の「世界に一人きり」のような孤独感が、私は深く刺さりました。

MP~3

あなたは読んでみて何を感じるでしょうか?