『明暗』
著:夏目漱石
1988年/ちくま文庫

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夏目漱石の絶筆となった作品。ちくま文庫で読んだ。


津田という痔の手術をした主人公とその妻お延がメインの主人公となって紡がれる物語。
そこに、夫婦で世話になっている津田の会社の上司・吉川夫妻や友人の小林などの人物が、それぞれ腹に何かを抱えつつ、表向きは何事もないように進んでいく。
金の話がややこしくあったりするのは夏目漱石作品で多い設定だ。

しかし、津田の過去の女性関係、というのが最大のモヤモヤとして描かれる。今の妻と出会う前に、津田は運命的な出会いの末に別れを経験していた。
その女性と湯治で訪れた温泉で再会!?

という所で物語は絶筆となる。
夏目漱石作品終盤の、物語が急加速する地点を迎えていたような気がするだけに、先がとても気になる。ここからどんな展開が待っていたのだろうか…。

ちなみにこの続きはこうなんじゃないか?という小説を、水村美苗さんが『続明暗』というタイトルで書かれている。


面白い試みだ。

私が『明暗』を読んでいてとても面白いな、と感じたのは、途中で物語の主人公が交代するような地点がある事。
ずっと津田の視線に寄り添う形で進んでいた物語は、中盤でお延に寄り添う視点になっていく。
最近の小説だと、物語の主人公がどんどん入れ替わって…というような構成はよく出会うが、夏目漱石の生きた時代の小説では、私が朗読で触れ合った作品の限りではあんまり見たことがない。
読み進めていて「うぉっ、新鮮!」となった。
それと、声に出していて感じたのは他の夏目漱石の作品よりも一文が長めな事が多くて、声に出して読むには工夫が必要な点が多かった点。これも印象的だった。

未完に終わった物語。夏目漱石はこの先、どんな展開を頭に描いていたのだろうか。

夏目漱石の作品は、雰囲気が重視される傾向にあると思う。『三四郎』で言えば学生時代の空気感、『それから』では不倫という行為への煩悶。
『明暗』でいえば、漠然とした不安感や不信感が物語の底にずっと流れているような印象で、一見何でもない明るさのすぐ裏に流れる暗、という印象を受けた。
『続明暗』も先日購入したので、読み進めてみたい。

皆さんは『明暗』どう読みましたか?

私の朗読『明暗』はこちら↓





【ネタバレあらすじメモ】

1〜10
津田は病気(痔)だ。
手術をしなければならないが、どうにも手術代を捻出するのが難しい。
そもそも、手術の間、会社は休めるのか。
そこは、上司・吉川の妻と面識があるのでなんとかなった。彼と吉川夫人とは、悪くない関係だ。
一つの秘密を握られている。

11〜20
津田は治療代のやりくりの為に色々考えるが結局父に手紙を書く。
上司の吉川にも話をし、休みを取れることになる。その足で彼は病院へ向かうと部屋を取れた。近日手術。その前に津田は、叔父の藤井の元を訪ねるという。叔父は文筆業だ。

21〜30
津田は藤井の叔父のもとを訪ねる途中、彼の息子の真事と会い、共に藤井の家へ。
真事は岡本の家の子と親交がある。
家に入ると藤井の妻に小言を言われる津田。
藤井家には小林が来ている。
お金さんの結婚話で来ているのだ。結婚についてへらへらしている津田は、叔母に軽く叱られる。藤井家の娘二人を貰うことも、津田は出来たのだが無視していたのだ。
ほどなく小林と叔父が合流。
薬を飲む津田を見て、叔父は「近頃の若いもんは貧弱だ」と言い出す。小林は、金に余裕があるものが病気になるのだ、と。
お金さんの結婚について、一度も会わない人と結婚なんか出来るのか、と漏らすと叔父もなんだか怒ってしまう。皆がお前のようにはいかないのだと言われる。
叔母にも結婚について議論をふっかける津田。

31〜40
叔父は自分の結婚について話をし、議論を仲裁。津田は小林と共に叔父の家を出ると、小林に飲みに誘われる。
小林は今度朝鮮へ行くんだとこぼす。
遅く帰ると鍵が閉まっていて、妻を呼ぶ。
そして即寝る。

41〜50
翌日は朝から病院へ。妻はなぜか着飾っている。
痔の手術を受ける津田。無事終了。
妻は岡本で芝居に誘ってくるからと、しぶる津田に許可をもらい向かう。
ここからお延の視点。岡本の家の姉・継子、妹百合子と共に芝居を観る。夫への不満を叔母に話そうか話すまいか迷っていると、劇場で吉川夫人に遭遇。
お延は吉川夫人が苦手。昼を皆で食べる約束があるらしく、その時に挨拶する事に決める。
岡本がやってきて、今日お延を呼んだのは大事な話があるからだと告げる。これから吉川と食事をするというのだ。

51〜60
お延は継子の若さに嫉妬を覚えつつ、吉川との会食の場に向かう。会食の席には、ドイツから戦争前に逃げ出してきたという謎の若い男、三好も同席する。三好の洋行談で盛り上がる一同。お延はうまく入れない。
吉川夫人は継子にばかり話をふり、彼女は上手く答えられない。お延は嫉妬と軽蔑を継子に感じる。
吉川夫人が津田の事をなかなか話題にしない態度にお延は不審を感じるも、最後の最後に話題になり、食事は終わる。
芝居の最中に津田の事を思い出し嫌な気分になるお延。帰り際、近いうちに遊びに来いと岡本に言われる。
帰宅して夜なかなか眠れず、翌朝、寝坊するお延。なんだか夫と吉川夫人の事を考えるとモヤモヤする。岡本の家に早速出かける事にする。途中、習い事に行く継子とすれ違う。
岡本の妻に迎えられたお延は、彼女の女気の抜けた姿を見て、自分もやがてこうなるのか、と恐ろしさを感じる。

61〜70
叔父に会い話をするうちに、お延は気持ちが弾んでくる。昔から叔父と悪口を言い合うのが好きだった。
叔父は夫婦仲を問い、津田とは上手く行かないだろうと冗談を飛ばす。それを冗談と受けきれないお延。
彼女は叔父といるときの方が自然体で、叔父と正反対の津田といるときは無理をしている感じがしてならない。
叔父が、先日の食事会は継子と三好の見合いだったのだと告白。
三好に会った率直な感想を聞きたいのだという。人を見る目を見込まれた形だが、夫を見る目に躓いたお延は強く言えない。だが継子の前でそんな失敗の素振りは見せられない。
なんとか話をそらそうとするが、結局継子の話に。お延はついに泣き出してしまう。
と、継子が帰ってきて一同は救われる。藤井の叔父を呼ぶ呼ばないの話に。
お延と継子は継子の部屋に。おみくじをめぐり戯れる。

71〜80
お延は継子に、今幸せであるように思われていることが辛くなってくる。継子に恋愛のアドバイスをするつもりで、自分を激励するような言葉を出す。百合子が来て、継子がいつも「由雄さんのような言うことを聞く旦那が羨ましい」と言っているとお延に話す。
皆で食卓へ。
一番下の子供の一から、藤井の所の息子・真事のとの遊びが語られる。
続いて藤井と岡本の仲の話に。割と付き合いをしている風だ。
藤井の論「男と女は引かれ合う」という話に。お延と血が繋がっているのは叔母の方だが、お延は叔父の方が好きなので少し納得。
岡本はお延に小切手を渡す。夫婦円満の秘薬だと。泣きそうになるお延。
岡本に送られて家に帰ると、女中のお時が「小林が訪ねてきた」という。まるで彼の用件が分からず笑う二人。
お延は夫への不安の気持ちを押し殺し、うまくやっていると京都の両親へ手紙を書く。
京都で津田に初めて会った時を思い出すお延。親同士の本の貸し借りが縁だった。お延はあの頃近づいた自分たちが、離れていくのではと感じる。
翌朝。早く起きたお延の元に来客がある。

81〜90
小林が、津田と約束したからと外套をもらいに来る。小林は「津田は昔と大分変わった」と言い出し、お延が知らなければならない事が沢山あるんだ、と何かを話し出そうとする。さんざんじらした末に小林は話さない。ただ、津田が何か悪いことをしているような事をほのめかし、帰っていく。
お延は津田の机を調べたりする。昔津田が、手紙を焼いていた事を思い出す。

91〜100
一方で、津田の妹が津田を訪れた時・小林の訪問より少し前に話は戻る。津田の妹はお延のことをあまり好きでない。
津田は父への借金の保証人的な人物として、妹お秀の夫・堀に世話になっている。津田が借金をすることは即ち、お秀にも関係のあることだ。
そしてお秀は、借金の原因は派手好みのお延であると見ている。
津田もお秀も、金について解決を見いだせない中、津田の家の女中・お時がやってくる。
お時から、家に小林が来てお延と話していると聞いた津田は心がざわつく。小林は信用できないとお秀に話すと、彼女は執拗になぜかと訪ねる。津田がお延を信じていないからではないか、と。津田はなんとか話を変え、再び金策の話を始めるが、またお延の事にたどり着いてしまう。

101〜110
お秀は兄が、自分を軽蔑したように話すのがしんどい。そして、何かに気付く。お秀は口を開く。兄さんは家族よりもお延を大切にしている、しかし他にも大切にしている人がいるのでは、と。その話の途中で、お延が顔を青くしてやってくる。
お延はどうにか津田と妹の仲を取り持とうとする。だがお秀は、津田もお延も人間として欠けている、と言い捨てて出ていく。

111〜120
お秀を見送るお延。お延と津田は、妹襲来事件によって初めて打ち解けた心持ちになる。津田がお延に対して持っていた金銭面での見栄が自然に剥がれたからだ。
二人は打ち解けて話し合い、津田の実家に対して話をしてくれる何者かを見繕う。そこで浮上してきたのは、津田の上司・吉川の名だった。彼の夫人から話を通してもらう必要があるが、お延は夫人が苦手だ。それでも二人は、吉川に頼むことを決める。
津田が一人の所を小林が訪ねてくる。彼はお延に何か言ったような事をほのめかし、津田はその内容を聞き出そうとする。
だが小林は逆に津田をゆするような言動を始める。お秀に会って兄弟喧嘩の事を聞いた、あまり怒らせると君の損になるんだぜ、と。
お秀は吉川の所に相談に行ったのだという。

121〜130
津田は小林を帰らせ、吉川夫人が自分を訪ねてくるのを待つ。一方お延は、お秀の夫・堀の家を訪ねる。その家の何者とも彼女は気が合わない。訪ねた結果、予想外にお秀と二人で話をすることになったお延はなかなか話を切り出せない。思い切って吉川夫人の名前を出して鎌をかけるお延。お秀の様子が変わる。だが結局の所、自分が唯一愛されたいというお延の気持ちが露見し、言い争いはお延に不利な形で終わってしまう。

131〜140
津田の病室に吉川夫人がやってくる。二人は秀子が夫人を訪問したという話に入る。夫人は津田に問いをかける。本当はあなたは、延子さんを愛しているふりをしているだけでしょう、と。津田は実際、人間関係に有利だからそうしているのだ。
さらに夫人は切り込んでくる。なぜ清子と結婚しなかったのかと。津田のかつての恋人・清子は夫人も関わりがあった。まだ未練があるのだろうと聞くと、津田はそうだと答える。
夫人の口から、清子はとある温泉場にいると聞く津田。夫人は津田に彼女を訪ねるように言う。

141〜150
清子が夫の関と一緒ではなく、流産の療養のために単身温泉場にいると聞いた津田は彼女を訪ねる決意を固める。
夫人は津田と清子を合わせることで、お延に学ばせたい事があるという。自分が上手くやるから、と。ところへお秀から電話が来る。お秀が病院へ向かうかもしれないと聞いた夫人は、急ぎ引き上げる。
お延は病院へ向かう途中、吉川夫人の姿を見かけた気がする。夫人とお秀と津田の関係を怪しみつつ、彼女は病院の津田の元へ。
お延は津田に対し、秘密は全て知っていると鎌をかける。津田はボロを出し、さっきまで吉川夫人が来ていたことがバレる。どうにか言い訳をする津田。
お延は津田に対し、何も心配ないと保証してほしい!と取り乱し、津田も何も心配ないと応じる。津田は隠し事に成功し安堵、お延もまた、隠し事があることは知りつつ、夫の言葉に一応安堵する。

151〜160
なんとか小林に責任を転嫁して津田は危機を回避したが、お互いしこりが残る。
津田は小林に会いに行くと、誰かと小林が話しているのを目撃。少し時間を潰した後こばに会うと、小林から「僕も君を軽蔑している」と言われる。君は僕のように出来ないからかわいそうだと。いざ事が起こった時、君は僕の言葉を思い出すんだと。そしていよいよ本論を語り出す。小林はお延に、清子の事を話したの話さないの揺さぶりをかける。そして津田に、お延に満足していないだろう?新しいのを探す気だろう?と告げる。津田は金を渡して切り上げようとする。

161〜170
津田は金を渡したことで上に立とうとするがうまく行かない。と、そこへ一人の人がやってくる。
やってきた原という男は画家らしく、小林は津田に、彼の絵を買うように言う。さらには、人生に苦労している人から小林に宛てられた、正体不明の手紙を読まされる。
小林は手紙に同情を感じるか、など言ってくる。津田は策にはまるまいとする。小林は津田から貰った金を原に渡そうとするが、原は受け取りにくい様子。動揺する津田。その後解散。
津田はとうとう温泉行の旅路に着く。汽車の中で津田は40歳くらいの男と、爺さんと出会う。二人の会話に思索を邪魔されつつも、津田は目的地へ向かう。

171〜180
温泉に着くと建物が迷路のように広い。それとなく下女に、清子の情報を聞こうとする。津田はさ迷いながら歩いていると、清子に遭遇する。何も話せないまま清子は去っていった。
津田はその後も、清子を探し求めながら旅館をさまよい歩く。

181〜188(未完)
津田はとうとう清子と話をする。以前と変わらない部分と、変わってしまった状況とに心を乱される津田。