『それから』
著:夏目漱石
昭和23年/新潮文庫
発表:1909年
夏目漱石の前期三部作(三四郎/それから/門)の真ん中の作品。
主人公の代助はスーパーニート。実家が豊かで、そこから送られるお金で思索にふける事こそが最上の生き方で、金の為にあくせく働く事は自分を無くす事だ、という信念がある。
すごい主人公設定だが、あとがきなどによると、この設定がどうにも共感を得難く、いまいち人気が出なかったとか。まぁ、こんな人がうんうん悩んでいても、「お前はとりあえず働け」と思ってしまうのも、もっともな話か。
↑全編朗読しました。
さて、今作の主人公の代助くんがどんな悩みにぶち当たるかと言うと、不倫だ。
今よりも倫理観とか厳しそうな時代に、スーパーニートが不倫に悩む。これは人気ないどころかむしろ反感買ったりしたんじゃなかろうか…。
代助には学生時代からの友・平岡がいて、代助も平岡も三千代という女性を好きになってしまう。代助は友情を選択し平岡と三千代の仲を取り持った過去があり、現在平岡と三千代は夫婦だ。
そこから時は経ち、代助は平岡夫妻と再会。平岡は金の為にあくせくする「代助が嫌いなタイプの人間」へと変貌しており、夫婦関係も色々あって冷え切っている様子。
そんな不遇な三千代の姿を見て代助は再び三千代に惹かれ始める…。
というのが今作のストーリーだ。なんとなく『こころ』とも通ずる人間関係。
さて代助は不倫へと踏み込むのか否か…こう聞くと大分ドラマティックな物語のようだが、漱石先生お得意のゆったりとした展開で、モヤモヤした空気が結構な時間紡がれる。
その間、代助は実によく悩む。実家の方では度々彼に縁談を持ちかける。
いっそ結婚してしまうか、断って三千代への思いを貫くか。縁談を断り人の妻を奪うと、当然実家からの仕送りは打ち切られるだろう(おい)打ち切られたら大嫌いな労働をしなければならない(おい)
などなど、共感出来るような、共感出来ないような悩みで煩悶する代助。
働いて当然、不倫はしないのが当然、というような社会の常識とか制度とか、そういったものと、人間の自由というものの対立構造が色んな箇所で登場するこの作品。
全てと対立していく為に、共感を得にくい主人公像になったのかもしれない。
実際、代助の言葉には道理が通っているなぁと感じる場面も多々ある。
印象的なのは代助が三千代の夫・平岡に言うこのセリフ。
とこうだ。なるほど、それは道理だ、となる。『吾輩は猫である』の後半における結婚論といい、夏目漱石の描く男女の関係には新しいものがあるように感じる。
既成の概念に囚われずに生き方を模索する様が刺激的だ。

『それから』は、これも漱石先生あるあるだが、後半、エンジンがかかりにかかっていて面白い。まさに怒涛の展開。
「僕の存在には貴方が必要だ」と、どストレートなセリフまで飛び出す。
それまでまったり進んできた物語が一気に加速する。ラストシーンは緊迫感があり、ここまで読んできてよかったー!という気持ちになった。
オーディオブックダウンロード販売中!
【ネタバレあらすじメモ】
主な登場人物
・代助…のらくら暮らす人。実家が太い。
・門野…書生。
・婆さん…代助の面倒を見る
・平岡…代助の学生時代の友
・梅子…兄嫁。
・父…厳しい。
・三千代…平岡の妻。昔代助といい感じだった。
・兄・誠吾
一
代助、女性の写真を見てふと目を止める。
ニ
旧友・平岡がやってくる。
平岡とおしゃべり。生活が苦しいらしい。代助とは住む世界も考え方もかなり違う。
三
家族の話。
父に叱られる。情熱が足りない、と。
兄嫁からは縁談を勧められる。
家柄に縁のある佐川家の娘だ。
四
平岡の妻・三千代がやってくる。
平岡の500円の借金を払い切るために、金を貸してはくれぬか、と。
五
代助は平岡の借金をどうにかしてやろうと思うが、自分も現金は無いことに気付く。
そこで、こうした時にいつも金の世話をしてくれる兄に、金を借りに行く。
兄は「そういう事はほっておけばどうにかなる、貸さない」と例を出して言う。
代助は、それは兄の嫁が内緒で貸しているのだ、呑気だな、と答える。
六
結局兄からは金を借りられなかった。
平岡の家に呼ばれ、奥さんも含め三人で飲む。代助と平岡は働くことについて激しく議論する。本当の仕事とは?金目当てではいけないのか?
七
やはり平岡の借金が、というより三千代の事が心配で、兄嫁に話をしにいく代助。
兄嫁に、皆を馬鹿にしているのに何故、馬鹿にしている相手に頭を下げて金を借りるのか、と問われる。
兄嫁は代助を刺激してやる気を起こさせたい。
代助はしかし、そんな気が起きない。
結婚の話になる。縁談を進めろと言われるが気が乗らない。好きな相手がいるのかと問われ、ふと、三千代の事が頭に浮かんだ。
八
大きな地震が起きる。
なんだかんだ、兄嫁は200円金をくれた。
三千代に届ける。
平岡は後日、礼に訪ねてきたが、冷たい態度だった。
代助は、なぜ平岡と三千代を結婚させたのだろうかと疑問に思い始める。
九
父親に呼ばれ話をする。縁談の話。
決めた相手でもいるのか、いないならこちらの言う通りに結婚しろと叱られる。
十
色々考えて神経過敏な代助は昼寝する。
間に三千代がやってきて、一度出かけ、またやって来る。
お金の礼を言い、例の借金をまだ返せていないことを代助に詫びる。なんだかかわいく思う。
十一
代助、アンニュイな気持ちで思索してばかり。
気分を変えようと三千代を訪ねる気になるが、途中寺尾に出会い時間がなくなった。
夜になって平岡を訪ねるが不在、ビールを飲んで帰る。
翌日、兄嫁から使いが来たので向かう。
兄嫁に会うと、縫子と兄嫁と共に歌舞伎を観に行ってくれとのこと。
承諾する代助。
歌舞伎に行くと、客席に代助の見合い相手。
兄嫁たちにはめられたと気付くが、適当に応対する。
家に帰り、考える。
都会に住む者の特権は、新しい物に臨機応変に触れていくことで、自分はそれを最上の生き方と考える。
恋愛にもそれは当てはまるため、結婚とは呪うべきシステムである。
だから自分は芸者を相手に色恋を楽しむ。
そう考えを巡らしたとき、三千代の事を思い出す。
自分の論理だと、三千代の事も、愛しているわけではない。
頭と心に、隔たりを感じる。
十二
兄嫁が結婚の件に乗り出してきたので、代助は旅行に出かけてしまおうかと思うが、兄に先に手を打たれ、
縁談の相手と食事をすることになった。
娘は大人しい性質で、兄も兄嫁も父も、特に結婚は異論ない。
代助もとりたてて異論はないのだが、
父にどうだ?と聞かれても、返事が出来なかった。
十三
代助はまた三千代を訪ね、夫にほって置かれて淋しい、生活が苦しい三千代に心惹かれる。
平岡に会いに行き、苦言を呈そうと思ったが、いまいち強く出られなかった。
代助は、三千代を奪うか、結婚の話を進めるかしか、このモヤモヤを解消する術はないと感じるのだった。
十四
代助はさんざ考えた末、結婚話を断るために出掛ける。
自分には思う人があると兄嫁に告げ、
自分を追い込み、三千代を家に呼び、想いを告げる。
自分が生きるには、あなたが必要だと。
三千代も同じ想いでいると。
覚悟を決める。
十五
今まで熱がないと言われ続けた代助だが、
世界を敵に回す覚悟を決め、父に縁談を断ることを告げる。
好きにしろ、ただし今後の援助は打ち切る、との答え。
代助は、経済的に不安を感じる。
十六
代助は仕事の事をあれこれ考えるが、全く何も浮かばない。
実家の援助がなくなることを三千代に謝る。
平岡には自分から話を切り出すことを三千代に告げ、平岡に手紙を出す。
兄嫁は代助の懐事情を心配し、手紙で小切手をくれる。
三千代が病気で倒れたという。
平岡が家にやってきて、代助は成り行きを話す。
君は彼女を愛していなかった、僕は愛していると告げる。
平岡は、ならばなぜ結婚の仲介などしてくれたのかと問う。
言葉を交わした末、平岡は代助に三千代を譲ることに納得。
だが、病気が治ってからでなくては渡さない、それまでは家に来てくれるなと告げる。
十七
代助のもとを兄が訪ねてくる。
父の所に、平岡から手紙が届いた、これだ、読んでみろ、相違ないか、と。
そうだと答えると代助は、勘当される。
職を探しに街をさ迷う代助。
視界の全てが赤くなる、急に追い詰められるラスト。
著:夏目漱石
昭和23年/新潮文庫
発表:1909年
夏目漱石の前期三部作(三四郎/それから/門)の真ん中の作品。
主人公の代助はスーパーニート。実家が豊かで、そこから送られるお金で思索にふける事こそが最上の生き方で、金の為にあくせく働く事は自分を無くす事だ、という信念がある。
すごい主人公設定だが、あとがきなどによると、この設定がどうにも共感を得難く、いまいち人気が出なかったとか。まぁ、こんな人がうんうん悩んでいても、「お前はとりあえず働け」と思ってしまうのも、もっともな話か。
↑全編朗読しました。
さて、今作の主人公の代助くんがどんな悩みにぶち当たるかと言うと、不倫だ。
今よりも倫理観とか厳しそうな時代に、スーパーニートが不倫に悩む。これは人気ないどころかむしろ反感買ったりしたんじゃなかろうか…。
代助には学生時代からの友・平岡がいて、代助も平岡も三千代という女性を好きになってしまう。代助は友情を選択し平岡と三千代の仲を取り持った過去があり、現在平岡と三千代は夫婦だ。
そこから時は経ち、代助は平岡夫妻と再会。平岡は金の為にあくせくする「代助が嫌いなタイプの人間」へと変貌しており、夫婦関係も色々あって冷え切っている様子。
そんな不遇な三千代の姿を見て代助は再び三千代に惹かれ始める…。
というのが今作のストーリーだ。なんとなく『こころ』とも通ずる人間関係。
さて代助は不倫へと踏み込むのか否か…こう聞くと大分ドラマティックな物語のようだが、漱石先生お得意のゆったりとした展開で、モヤモヤした空気が結構な時間紡がれる。
その間、代助は実によく悩む。実家の方では度々彼に縁談を持ちかける。
いっそ結婚してしまうか、断って三千代への思いを貫くか。縁談を断り人の妻を奪うと、当然実家からの仕送りは打ち切られるだろう(おい)打ち切られたら大嫌いな労働をしなければならない(おい)
などなど、共感出来るような、共感出来ないような悩みで煩悶する代助。
働いて当然、不倫はしないのが当然、というような社会の常識とか制度とか、そういったものと、人間の自由というものの対立構造が色んな箇所で登場するこの作品。
全てと対立していく為に、共感を得にくい主人公像になったのかもしれない。
実際、代助の言葉には道理が通っているなぁと感じる場面も多々ある。
印象的なのは代助が三千代の夫・平岡に言うこのセリフ。
「三千代さんは公然君の所有だ。けれども物件じゃない人間だから、心まで所有する事は誰にも出来ない。本人以外にどんなものが出て来たって、愛情の増減や方向を命令する訳には行かない。夫の権利は其所まで届きやしない。だから細君の愛を他へ移さない様にするのが、却って夫の義務だろう。」
とこうだ。なるほど、それは道理だ、となる。『吾輩は猫である』の後半における結婚論といい、夏目漱石の描く男女の関係には新しいものがあるように感じる。
既成の概念に囚われずに生き方を模索する様が刺激的だ。

『それから』は、これも漱石先生あるあるだが、後半、エンジンがかかりにかかっていて面白い。まさに怒涛の展開。
「僕の存在には貴方が必要だ」と、どストレートなセリフまで飛び出す。
それまでまったり進んできた物語が一気に加速する。ラストシーンは緊迫感があり、ここまで読んできてよかったー!という気持ちになった。
オーディオブックダウンロード販売中!
【ネタバレあらすじメモ】
主な登場人物
・代助…のらくら暮らす人。実家が太い。
・門野…書生。
・婆さん…代助の面倒を見る
・平岡…代助の学生時代の友
・梅子…兄嫁。
・父…厳しい。
・三千代…平岡の妻。昔代助といい感じだった。
・兄・誠吾
一
代助、女性の写真を見てふと目を止める。
ニ
旧友・平岡がやってくる。
平岡とおしゃべり。生活が苦しいらしい。代助とは住む世界も考え方もかなり違う。
三
家族の話。
父に叱られる。情熱が足りない、と。
兄嫁からは縁談を勧められる。
家柄に縁のある佐川家の娘だ。
四
平岡の妻・三千代がやってくる。
平岡の500円の借金を払い切るために、金を貸してはくれぬか、と。
五
代助は平岡の借金をどうにかしてやろうと思うが、自分も現金は無いことに気付く。
そこで、こうした時にいつも金の世話をしてくれる兄に、金を借りに行く。
兄は「そういう事はほっておけばどうにかなる、貸さない」と例を出して言う。
代助は、それは兄の嫁が内緒で貸しているのだ、呑気だな、と答える。
六
結局兄からは金を借りられなかった。
平岡の家に呼ばれ、奥さんも含め三人で飲む。代助と平岡は働くことについて激しく議論する。本当の仕事とは?金目当てではいけないのか?
七
やはり平岡の借金が、というより三千代の事が心配で、兄嫁に話をしにいく代助。
兄嫁に、皆を馬鹿にしているのに何故、馬鹿にしている相手に頭を下げて金を借りるのか、と問われる。
兄嫁は代助を刺激してやる気を起こさせたい。
代助はしかし、そんな気が起きない。
結婚の話になる。縁談を進めろと言われるが気が乗らない。好きな相手がいるのかと問われ、ふと、三千代の事が頭に浮かんだ。
八
大きな地震が起きる。
なんだかんだ、兄嫁は200円金をくれた。
三千代に届ける。
平岡は後日、礼に訪ねてきたが、冷たい態度だった。
代助は、なぜ平岡と三千代を結婚させたのだろうかと疑問に思い始める。
九
父親に呼ばれ話をする。縁談の話。
決めた相手でもいるのか、いないならこちらの言う通りに結婚しろと叱られる。
十
色々考えて神経過敏な代助は昼寝する。
間に三千代がやってきて、一度出かけ、またやって来る。
お金の礼を言い、例の借金をまだ返せていないことを代助に詫びる。なんだかかわいく思う。
十一
代助、アンニュイな気持ちで思索してばかり。
気分を変えようと三千代を訪ねる気になるが、途中寺尾に出会い時間がなくなった。
夜になって平岡を訪ねるが不在、ビールを飲んで帰る。
翌日、兄嫁から使いが来たので向かう。
兄嫁に会うと、縫子と兄嫁と共に歌舞伎を観に行ってくれとのこと。
承諾する代助。
歌舞伎に行くと、客席に代助の見合い相手。
兄嫁たちにはめられたと気付くが、適当に応対する。
家に帰り、考える。
都会に住む者の特権は、新しい物に臨機応変に触れていくことで、自分はそれを最上の生き方と考える。
恋愛にもそれは当てはまるため、結婚とは呪うべきシステムである。
だから自分は芸者を相手に色恋を楽しむ。
そう考えを巡らしたとき、三千代の事を思い出す。
自分の論理だと、三千代の事も、愛しているわけではない。
頭と心に、隔たりを感じる。
十二
兄嫁が結婚の件に乗り出してきたので、代助は旅行に出かけてしまおうかと思うが、兄に先に手を打たれ、
縁談の相手と食事をすることになった。
娘は大人しい性質で、兄も兄嫁も父も、特に結婚は異論ない。
代助もとりたてて異論はないのだが、
父にどうだ?と聞かれても、返事が出来なかった。
十三
代助はまた三千代を訪ね、夫にほって置かれて淋しい、生活が苦しい三千代に心惹かれる。
平岡に会いに行き、苦言を呈そうと思ったが、いまいち強く出られなかった。
代助は、三千代を奪うか、結婚の話を進めるかしか、このモヤモヤを解消する術はないと感じるのだった。
十四
代助はさんざ考えた末、結婚話を断るために出掛ける。
自分には思う人があると兄嫁に告げ、
自分を追い込み、三千代を家に呼び、想いを告げる。
自分が生きるには、あなたが必要だと。
三千代も同じ想いでいると。
覚悟を決める。
十五
今まで熱がないと言われ続けた代助だが、
世界を敵に回す覚悟を決め、父に縁談を断ることを告げる。
好きにしろ、ただし今後の援助は打ち切る、との答え。
代助は、経済的に不安を感じる。
十六
代助は仕事の事をあれこれ考えるが、全く何も浮かばない。
実家の援助がなくなることを三千代に謝る。
平岡には自分から話を切り出すことを三千代に告げ、平岡に手紙を出す。
兄嫁は代助の懐事情を心配し、手紙で小切手をくれる。
三千代が病気で倒れたという。
平岡が家にやってきて、代助は成り行きを話す。
君は彼女を愛していなかった、僕は愛していると告げる。
平岡は、ならばなぜ結婚の仲介などしてくれたのかと問う。
言葉を交わした末、平岡は代助に三千代を譲ることに納得。
だが、病気が治ってからでなくては渡さない、それまでは家に来てくれるなと告げる。
十七
代助のもとを兄が訪ねてくる。
父の所に、平岡から手紙が届いた、これだ、読んでみろ、相違ないか、と。
そうだと答えると代助は、勘当される。
職を探しに街をさ迷う代助。
視界の全てが赤くなる、急に追い詰められるラスト。
コメント