『奥底』
原題:Die tiefe Natur
作:ヘルマン・バール(1863〜1934)
訳:森鷗外
発表:1907年


オーストリアの劇作家・ヘルマン・バールの作品を森鷗外が翻訳したもの。
森鷗外の翻訳、いかつそう…と思ったらそうでもなく読みやすい。
森鷗外はかなりの数の戯曲を翻訳しているので、私のような著作権切れの台本を探し回っている民にはとてもありがたい。

しかし、ヘルマン・バール、聞いたことなかった…。ウィーン世紀末文化を代表する「青年ウィーン」というグループの一人らしく、同グループにはシュニッツラーやホーフマンスタールも参加していたとか。(立派なヒゲだ…)

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森鷗外はこの辺りの作家の本を結構翻訳している。
「今、ウィーンが熱いぞ!」てな感じで日本でも注目されてたんだろうか。
この頃、伝統芸能じゃない日本の演劇を作ろう!てな運動も盛んだった事もあって、海外の戯曲の翻訳がとても多い印象。この頃の翻訳作品、岩波文庫とかで大量に出してくれないかなぁ…古本か文学全集頼みになってるのがもったいない。

さてさて、このヘルマン・バールの『奥底』面白かった。

女性は気持ちが変わりやすい、と思ってる学士のエルギンが、自分の恋人のヘレエネを家に招いている。
だがエルギンは彼女の気持ちを試す為に、友人のレオを家に呼んで、自分は外出する。
きっとヘレエネはレオになびくだろう、それが女というものだ、とレオに語るエルギン。
一方真面目なレオは、そんな事はない、女性の愛はそんなやわな物じゃないと主張。
エルギンは
・ヘレエネが靡いたら自分の勝ち
・靡かなかったらレオの勝ち
という賭けを始め、出ていく。
さてさてヘレエネが家にやってきて…どうなる!?

というお話。
登場人物三人の気持ちが揺れ動きぶつかりあって、賭けという分かりやすい構造の中で大暴れする面白い戯曲でした。



【収録】
『鷗外選集19』
著:森林太郎
1980年/岩波書店



【ネタバレあらすじメモ】

学士エルギンの家。

エルギンとレオ
・友人の学士レオが訪ねてくる。
・エルギンは女性を試す賭けをしようとしている
・レオはそれに反対
・先日賭けに夢中になり、エルギンはヘレエネを三時間待たせた
・エルギンは女は相手が違ったら違ったでいいものだから、レオに慰めさせようとした
・二人は喧嘩になる
・レオはヘレエネに恋をしていると思っているエルギン
・自分の家の鍵をレオに与え、訪ねてくる彼女がどう出るか賭けをしているエルギン
・エルギンはヘレエネがレオに靡くと賭ける
・レオはヘレエネは精神的に殺されるのだと言う
・レオは女性の奥深さ、愛を証明するという
・エルギンはその辺に隠れていようか、と言うがレオは怒る
・エルギンは自由が好きだ、と出ていく。
ヘレエネが来る

レオ、ヘレエネ
・レオはエルギンがいないと告げる
・ヘレエネはエルギンが決闘でもするのかと心配する
・エルギンは仕事らしいと告げるレオ
・ヘレエネは安心し茶を入れ始める
・ヘレエネはエルギンの心を見通している
・レオを誘惑する如く振る舞う
・ヘレエネはエルギンをそんなに思っているわけではないと告白
・レオはエルギンは来ないのだと告げる
・怒り悲しむヘレエネ
・飛び降りようとするヘレエネを止めるレオ
・レオは思う。エルギンはヘレエネに飽きた、ヘレエネはエルギンを愛している
・ヘレエネはレオの考えを否定
・あなたが好きだからと誘惑
・レオも告白
キスしようとするとエルギン来る

エルギン、レオ、ヘレエネ
・エルギンは怒りを抑えている
・レオはヘレエネが死のうとしたと告げる
・ヘレエネはそれは嘘だと主張
・ヘレエネは別れ話をしようとしていた
ヘレエネはレオと共に去る