『チチアンの死』
作:フーゴ・フォン・ホーフマンスタール(1874〜1929)
訳:木下杢太郎
戯曲断片。1892年

「ああ、死よ、今静かに身を屈め、この美しき酔のうちに、この沈黙のうちに来れ」

タイトルの「チチアン」は画家のティッツィアーノのこと。
この画家がもうすぐ亡くなる、という時の周囲の人々の様子を描き、壮大な追悼の一幕としている短い戯曲。
彼は我々に美を教えてくれた、などなどチチアンへの気持ちが美しく装飾された文体で綴られる。
全体に静謐な空気感と死のイメージが漂う戯曲。

青空文庫に収録。

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【ネタバレあらすじメモ】

時は1576年のこと。この年チチアンは99歳の高齢をもて没せるなり。

序曲を唱う者が長台詞。ある人への想い。「世にも大なる宗匠に対する深い哀悼の」場面をこれから始めるという。

晩夏。デジデリオ、アントニオ、バチスタ、パリス、チチアネルロ(先生の息子)、ヂャニイノらは病気の先生の容態について話し合っている。先生は狂ったように絵を描いているらしい。
そこへ下僕がやってくる。先生は昔描いた絵と今のを見比べたいと言っているが大丈夫か、と。チチアネルロは言う通りにするように言いつける。
また一同は静かに待つ。ヂャニイノ、デジデリオが世界について語る。一同、先生を褒め称え始める。
ラヴィニヤ(先生の娘)と少女らが現れる。誰もが先生の側から遠ざけられている。沈黙。
ヂャニイノ、死について語る。
そして、死が訪れる。