『武道館』
著:朝井リョウ
出版:2015年/文藝春秋
Audibleで読了。
朝井リョウ作品はAudibleにも数が多いので、結構読んでいる。一番好きな現代作家と言っても過言ではないかもしれない。
最初の出会いは文庫の『何者』
本気の説教を受けたような衝撃があった。
続いて『正欲』
これが本当に衝撃だった。読書で世界の見方は大きく変わるのだと痛感した一冊。映画化もされている。どんな形でもいいから触れて欲しいオススメの作品だ。
そこから『どうしても生きてる』『もういちど生まれる』『そして誰もゆとらなくなった』とAudibleで味わってきた。
『そして誰もゆとらなくなった』はエッセイ集だが、作品の鋭い感じとは一味違い、クリスマスケーキを沢山食べたかったり、銀座でトイレを探し回ったりする「何か面白い人」としての著者の姿を楽しめる。
そして出会ったのがこの『武道館』
タイトルから分かるように、武道館を目指すアイドルの話だ。
私はあまりアイドルには詳しくないが、友人がももクロにどハマリしていた時期があり、その記憶からか、ももクロの事を幾度も思い出した。
恋愛禁止、炎上、特典商法、握手会、ネットアンチ、卒業など、アイドルにまつわる様々な要素が描かれる。
それも、アイドル側の視点から。私たちがこちらの視点から実際に物事を見ることはほぼないであろう視点。
朝井リョウ作品は、この「想像もしない視点」に私たちを連れていってくれる。
そして、その視点の当事者の息苦しさと、私たちの無理解さをありありと描き出す。
「観る前の自分には戻れない」
とは映画『正欲』のキャッチコピーだが、朝井作品に触れると高確率で自分の中で世界が書き換えられる。
その意味ではこの『武道館』も『正欲』と同じ種類の衝撃だった。生きづらい人間を描き出す朝井作品。
著者はこの作品についてこう語る。
「【アイドル】という職業が背負う十字架を、一度すべて言葉にしようと思いました。すると、不思議と、今の時代そのものを書き表すような作品になりました」
現代を映す鏡のような作品。
あなたはこの鏡に、どんな姿で映っているでしょうか…。

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