『全員犯人、だけど被害者、しかも探偵』
著:下村敦史
2024年/幻冬舎
デスゲーム、と聞いて皆さんは何を思い浮かべるだろうか?
『バトル・ロワイヤル』
『ハンガー・ゲーム』
『ソウ』
などなど、様々な作品が頭に浮かぶ。
中でも『ソウ』の、不気味な人形がキコキコ三輪車をこいでやってきて、ボイスチェンジャーを通した恐ろしい声がゲームのルールを告げる様はとても印象的なものがあった。
目が覚めると見知らぬ空間に複数の人が集められている。そしてデスゲーム主宰者からのルール説明。それを軽視するものは真っ先に処刑される。デスゲームのお決まりの展開だ。
この『全員犯人、だけど被害者、しかも探偵』という異様に長くて説明的なタイトルの本も、始めはこの伝統に則っている。
ある会社の社長が社長室で亡くなった。その死に関わる7人がある廃墟に集められる。
そしてルールの説明。
ただ、ここからが面白い。
「社長を殺した犯人だけを生かしておいてやる」
48時間で毒ガスが噴出される部屋に監禁される7人。彼らはその時間内に、命を賭けた自白合戦を始める…。
というのがこの小説のユニークな所。
普通、犯人が殺されるでしょ!?
疑問を抱きつつも、どうやら本気のデスゲームらしいと知り、人々は社長の死が自分の責任だ、とデスゲームのゲームマスターにアピールし始める。
いかにそれっぽい事を言って犯人だと認定されるか。本来の裁判とは全く逆の発想で、人々は言葉を尽くす。
「俺が犯人だ」「違うわ私よ」「ある意味私が犯人といってもいい」
殺害方法の巧妙なトリックが自白されては他の参加者が穴を指摘し、その穴を埋める形で別の犯行方法を自白する。
全員が犯人であり、デスゲーム被害者であり、かつ人の自白を否定する探偵である。
タイトルの通りの大混乱。
必死の自白合戦は醜くもあり、滑稽でもある。
この話どうなっちゃうの…と思いながら読み進めると、事件は思わぬ展開を見せる。
著者・下村敦史さんの作品はこれが4冊目の読書。
全盲の老人が主人公のデビュー作『闇に香る嘘』
遺産相続の直前に行方不明の父親がブログを更新し始める『絶声』
何もかもが大逆転する短篇集『逆転正義』
と、今まで読んできた下村作品はユニークな設定と共に「えっ…ウソ…」と言葉が出なくなる大きな仕掛けが盛り込まれていた。
それはこの作品でも例外ではない。おいおいおい。仕掛けが明らかになると一気に話の体感速度が加速する。
映画『ソウ』ではエンディング付近に、恒例の曲とともに展開する怒涛の種明かしパートが設置されている。
ああいう、脳みその中のスイッチが次々に入れられていく感覚が好きな方には是非オススメしたい一冊だ。
ちなみにこの作品、舞台化されているらしい。映画じゃなくて?舞台?
なぜ舞台なのか、読んだ方は「それが正解」と、ニンマリすることだろう。

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