『西の魔女が死んだ』
著:梨木香歩
平成13年/新潮文庫 な 37 2

「アイ・ノウ」
梨木香歩作品をはじめからおわりまでちゃんと読むのはこれが初めて。
タイトルからすっかり『オズの魔法使い』となんらかの関わりがあると思っていたが、そうではなかった。


「西の魔女が死んだ。」という印象的な一文から始まるこの作品は、学校でおそらくいじめを受けている少女・まいが、学校を休んで、自らを「魔女」と呼ぶ母方の祖母の元に滞在する、というお話だ。
冒頭で祖母の危篤の知らせが入り、祖母の元へ向かうまい。そこから、祖母と過ごした日々の回想が展開される。
自然派の丁寧な暮らしをする祖母から「魔女の修行」と称して色々な事を教わるまい。
感情を乱さない心得などなど、現代人が見失いがちな事を、自然との触れ合いを通して取り戻していくまい。
なかでも根底に流れるのは「死んだらどうなるか」という答えのない問い。尋ねるまいに祖母は「残念ながら死んだことがないので分かりません」と応えるが、死は終わりを意味しないのではないかという考え、そして自分が死んだら「終わりでないことを教えてあげます」とまいに約束する。

死を見つめる事が根底にありながらも、作品には包み込むようなあたたかさがずっと漂っていて、なんだかお日様を浴びてぽかぽかになった布団でごろごろしているような気分で読んだ。

学校でうまくいかないまいに、祖母は無理してそこにいることもないと教える。
その際祖母はこう言う。

「サボテンは水の中に生える必要はないし、蓮の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極で生きるほうを選んだからといって、だれがシロクマを責めますか?」

説得力がある。祖母にうまく丸め込まれたような気もしつつ、まいは、それもそうだと納得する。

生きていく上での考え方、思わず視野が狭くなってしまうような毎日に、別方向からの見方を与えてくれる一冊だった。

あたたかい気持ちになりながらも自然と涙がすうとこぼれるラストも、とても味わい深い。

表題作の『西の魔女が死んだ』の他、その後のまいの人柄を友人の視点から垣間見れるライトな一作「渡りの一日」を収録。

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