『走れメロス』
著:太宰治
昭和42年 新潮文庫(た 2 6)
文庫タイトルにもなっている『走れメロス』を含む9編の小説が収録された一冊。
太宰治の小説を初めて買ったのがこの本だった。
手に取ったのは大学生の時。
今でこそ朗読の為に積極的に本を読んでいるが、大学生の頃の私は演劇にばかり没頭していたので、
小説よりも戯曲(お芝居の台本)を読むことに読書の大半を費やしていた。
本も、演劇に少しでも関係する物しか読まない、というような感じで、ゲームに例えれば、パラメーター育成を一つの要素に全振りした、極端なキャラクター育成を行っていた。
特に後悔はしていないが、偏った育ち方をしたものだと思う。

そんな学生生活で、太宰治を手に取った。
これも、演劇に関わりがある。
当時一人芝居のネタを探していた私は、どこからか、太宰治の『駈込み訴え』が良い、という噂を聞きつけた。そして手に取ったこの本だ。
『駈込み訴え』はその時に一読しているが、どういう訳か当時の私にはそんなに刺さらなかった様子だ。
その後、『走れメロス』くらいは教科書にも載ってるし、読み返したが、その他の作品群は読まぬまま、しばらくこの本は本棚に眠り続ける事になる。
学生時分や卒業後の演劇熱中時代には、私、結構ブックオフに本を売っている。
数多くのブックオフ行きの危機を乗り越え、この『走れメロス』は手元に残り続ける。
いつか『駈込み訴え』を上演しようという思いが、この本を手元に残させた。と言えば聞こえはいいが、実際は「ほとんど読んでないから置いとくか、文豪だし」くらいの感覚だったように思う。
やがて私の大朗読ブームを迎え、この本は手放せない物となった。
朗読をYou Tubeで配信するにあたり、考えなければならないのが著作権だ。
当然、著作権が存続している作家の作品を、勝手に配信する訳には行かない。
私がYou Tubeで朗読を配信し始めたのは、当時在籍していた事務所でお世話になった俳優・喜多川拓郎さんが運営されている「朗読カフェ」というチャンネルがきっかけだ。
著作権に関する知識から朗読の心構えから、喜多川さんには何かとお世話になった。この場を借りて、厚く御礼申し上げます。
朗読カフェは、週一回参加者が集まり、読みたい作品を録音、それがYou Tubeで配信される、というシステムだった。そこで私は、大・中島敦時代を迎える。かなり固めのとっつきにくい文章を、自分の中でかみ砕いて音にしていくのがたまらなく楽しかった。そして、『駈込み訴え』の録音もこの時に初めて行った。
お代官様のもとに駆け込んできた何者かが、延々と何者かの師とおぼしき人物への恨みつらみを語り続ける、一人語りの迫力ある文体は、声に出すのがとても楽しい。太宰作品は「人が語る」という形式で書かれる、一人称視点の物が多く、朗読にはもってこいの題材。
その後自分の朗読チャンネルを始めてからは頻繁に太宰作品を配信するようになった。今ではこの文庫に収録されている作品は、全てYou Tubeで配信済になっている。
演劇からナレーション、朗読とゆるやかに軸足が移った私の人生をずっと傍で見守り続け、読まれる機会が来るまでじっと本棚で待ち続けてくれた、セリヌンティウスのような一冊だ。
最後に、『走れメロス』から、私の好きな台詞を引用しておこう。
この文庫本には魅力的な作品が沢山収録してあるので、短いメモとともに収録作を紹介しておきます。
リンクは私の朗読に飛びます。
【あらすじメモ】
『ダス・ゲマイネ』
佐野次郎と馬場の物語。
茶屋の娘への恋、遊廓、二人で雑誌を作ろう、破綻、事故。人間は誰でも死ぬ。
『満願』
お医者さんの家での、ひっそりとした願いの短篇。
『富嶽百景』
甲州に籠った私が出会う、色んな富士。
富士という山が文学という巨大な相手のようでもあり、ラストは富士に暖かく包まれる様がなんだか、ほっとする。
『女生徒』
女生徒の起きてから寝るまでの感情独白ジェットコースター。過去・現在・未来という時間に対する感覚、見事に言葉に写し取られてる。さすが治ちゃん。絶品。
何か大きな物と繋がった気がする読後感。
『駈込み訴え』
役人にすごい勢いで訴え、ある人への不満を立て続けに告白する男。その正体は…。
『走れメロス』
暴君のもとに友を人質に残し、妹の結婚式に出席するメロス。約束の日没までに、王のもとに帰れるのか?
『東京八景』
これまでの半生振り返り、みたいな。
芸術は、私である(笑)
ラストの見送りの件がとても暖かい。こんな私だからこそ、力になれる!
『帰去来』
10年ぶりに故郷に帰ることになった太宰。その際に尽力してくれた二人の恩人・中畑さんと北さんについての文章。あたたかい。
『故郷』
『帰去来』の出来事の後、母の容態急変で再び故郷に帰る太宰。妻子も共に、北さん中畑さんの協力で帰郷した太宰。『帰去来』に比べこちらは、静謐な空気感が多く漂う作品。
解説…奥野健男
年譜
著:太宰治
昭和42年 新潮文庫(た 2 6)
文庫タイトルにもなっている『走れメロス』を含む9編の小説が収録された一冊。
太宰治の小説を初めて買ったのがこの本だった。
手に取ったのは大学生の時。
今でこそ朗読の為に積極的に本を読んでいるが、大学生の頃の私は演劇にばかり没頭していたので、
小説よりも戯曲(お芝居の台本)を読むことに読書の大半を費やしていた。
本も、演劇に少しでも関係する物しか読まない、というような感じで、ゲームに例えれば、パラメーター育成を一つの要素に全振りした、極端なキャラクター育成を行っていた。
特に後悔はしていないが、偏った育ち方をしたものだと思う。

そんな学生生活で、太宰治を手に取った。
これも、演劇に関わりがある。
当時一人芝居のネタを探していた私は、どこからか、太宰治の『駈込み訴え』が良い、という噂を聞きつけた。そして手に取ったこの本だ。
『駈込み訴え』はその時に一読しているが、どういう訳か当時の私にはそんなに刺さらなかった様子だ。
その後、『走れメロス』くらいは教科書にも載ってるし、読み返したが、その他の作品群は読まぬまま、しばらくこの本は本棚に眠り続ける事になる。
学生時分や卒業後の演劇熱中時代には、私、結構ブックオフに本を売っている。
数多くのブックオフ行きの危機を乗り越え、この『走れメロス』は手元に残り続ける。
いつか『駈込み訴え』を上演しようという思いが、この本を手元に残させた。と言えば聞こえはいいが、実際は「ほとんど読んでないから置いとくか、文豪だし」くらいの感覚だったように思う。
やがて私の大朗読ブームを迎え、この本は手放せない物となった。
朗読をYou Tubeで配信するにあたり、考えなければならないのが著作権だ。
当然、著作権が存続している作家の作品を、勝手に配信する訳には行かない。
私がYou Tubeで朗読を配信し始めたのは、当時在籍していた事務所でお世話になった俳優・喜多川拓郎さんが運営されている「朗読カフェ」というチャンネルがきっかけだ。
著作権に関する知識から朗読の心構えから、喜多川さんには何かとお世話になった。この場を借りて、厚く御礼申し上げます。
朗読カフェは、週一回参加者が集まり、読みたい作品を録音、それがYou Tubeで配信される、というシステムだった。そこで私は、大・中島敦時代を迎える。かなり固めのとっつきにくい文章を、自分の中でかみ砕いて音にしていくのがたまらなく楽しかった。そして、『駈込み訴え』の録音もこの時に初めて行った。
お代官様のもとに駆け込んできた何者かが、延々と何者かの師とおぼしき人物への恨みつらみを語り続ける、一人語りの迫力ある文体は、声に出すのがとても楽しい。太宰作品は「人が語る」という形式で書かれる、一人称視点の物が多く、朗読にはもってこいの題材。
その後自分の朗読チャンネルを始めてからは頻繁に太宰作品を配信するようになった。今ではこの文庫に収録されている作品は、全てYou Tubeで配信済になっている。
演劇からナレーション、朗読とゆるやかに軸足が移った私の人生をずっと傍で見守り続け、読まれる機会が来るまでじっと本棚で待ち続けてくれた、セリヌンティウスのような一冊だ。
最後に、『走れメロス』から、私の好きな台詞を引用しておこう。
「ついて来い!フィロストラトス。」フィロストラトス、一瞬の登場なのに、インパクト強すぎ。
この文庫本には魅力的な作品が沢山収録してあるので、短いメモとともに収録作を紹介しておきます。
リンクは私の朗読に飛びます。
【あらすじメモ】
『ダス・ゲマイネ』
佐野次郎と馬場の物語。
茶屋の娘への恋、遊廓、二人で雑誌を作ろう、破綻、事故。人間は誰でも死ぬ。
『満願』
お医者さんの家での、ひっそりとした願いの短篇。
『富嶽百景』
甲州に籠った私が出会う、色んな富士。
富士という山が文学という巨大な相手のようでもあり、ラストは富士に暖かく包まれる様がなんだか、ほっとする。
『女生徒』
女生徒の起きてから寝るまでの感情独白ジェットコースター。過去・現在・未来という時間に対する感覚、見事に言葉に写し取られてる。さすが治ちゃん。絶品。
何か大きな物と繋がった気がする読後感。
『駈込み訴え』
役人にすごい勢いで訴え、ある人への不満を立て続けに告白する男。その正体は…。
『走れメロス』
暴君のもとに友を人質に残し、妹の結婚式に出席するメロス。約束の日没までに、王のもとに帰れるのか?
『東京八景』
これまでの半生振り返り、みたいな。
芸術は、私である(笑)
ラストの見送りの件がとても暖かい。こんな私だからこそ、力になれる!
『帰去来』
10年ぶりに故郷に帰ることになった太宰。その際に尽力してくれた二人の恩人・中畑さんと北さんについての文章。あたたかい。
『故郷』
『帰去来』の出来事の後、母の容態急変で再び故郷に帰る太宰。妻子も共に、北さん中畑さんの協力で帰郷した太宰。『帰去来』に比べこちらは、静謐な空気感が多く漂う作品。
解説…奥野健男
年譜
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