『風の海 迷宮の岸(十二国記2)』
著:小野不由美
平成24年 新潮文庫

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十二国記。
この作品との出会いは中学校くらいに遡る。当時NHKでアニメを放送していて、それをなんとなく観ていた。


↑音声版感想はこちら

古代中国、といった感じの世界観に、女子高生的な主人公が迷い込んで、王様になる、というようなストーリーだった。
異世界では麒麟と呼ばれる生き物が王を選ぶという習わしがあり、その女子高生が麒麟に選ばれる、という設定。当時中学生の私はやや小難しい世界観と文学的雰囲気に引き込まれていったものだった。
女子高生が王になり、「私は私自身の王にならなければならない」みたいな事を言ってたような記憶があり、当時ちょうど中二くらいだった私は妙に奮い立った記憶があるのだが、何分昔の事なので定かではない。
この女子高生が王になってからの物語を観られるのだ、と思っていたら、主人公はパッとしない感じの暗い少年に代わる。
うじうじしたやつだな、という印象があった。その辺りからだんだんアニメを観なくなったような気がする。
そして、最近になって、原作の本を手に取った。

「あ、十二国記だ。読み始めると沼だって言われてるらしいな。こんなにシリーズあるのか…」
図書館で、膨大に陳列されているシリーズの棚を見かけ、ふと借りてみようかと思った。懐かしい記憶も手伝って、一番最初に置かれていたこの
『風の海 迷宮の岸』
を手に取った。あの王様女子高生に再会出来るのかと思って読み始めると。
あれ。雰囲気が暗い。
主人公は、家族に疎まれていると感じている少年だ。その少年が異界へと移り、麒麟として扱われる。生まれた時に天変地異的な事で現在の日本的な所にワープし、そこで少年まで育った境遇だという。
生まれ故郷の異界では、どこかに流されてしまった麒麟(泰国の麒麟なので泰麒と呼ばれる)を必死で探し回り、やっと見つけたとのこと。
麒麟は本来、人型と馬的な本来の姿とを自由にコントロールして変身する事が出来る。ところがこの少年は、幼少期を麒麟として過ごせなかったので、この転変が出来なくてうじうじ悩む。
あれ。この少年。アニメでちょっと観て、やめてしまった子だ!
本の表紙をよく見ると『風の海 迷宮の岸(十二国記2)』とある。
2巻から借りてるやーん!ということは、王様女子高生との再会はこの巻にはないわけだ。残念無念。
とはいえ、1巻に当たる部分はアニメで観ているからまぁいいだろうと、2巻を読み進める。
泰麒はずっと悩み続ける。自分が転変出来ないこと。麒麟は王の器を持つ人と出会うと、自然とそれを感じ、頭を下げて仕えるようになること。王を選ぶことこそが麒麟の使命で、王選びのイベントは壮大な規模で行われること。
その責任感もりもりなイベントに、この少年は突然巻き込まれる。自身が麒麟であるという自信もなく、王選びを出来るとも思えない。先輩麒麟からのアドバイスもどうもピンと来ない。
少年期を過ごした家庭で「自分の居場所がない」と感じていた少年は、本来の故郷に帰ってもいたたまれない思いをする。
このうじうじした少年が、中学生時分に接した時には好きになれなかった。
だが、今接してみて、大人でもこういう事あるよねと、親しみを覚えた。
大きなプレッシャー、自分を信じられない心、それに押しつぶされそうになりながら、自分が王を選べる日を待つ。ついには、「誰でもいいから王様選んじゃえばいいじゃん」なんて逃げの思考にも走る。
この少年が、葛藤し、煩悶する姿がとても良かった。しまいには、トウテツと呼ばれる伝説の妖魔に出会いバトルする羽目になる。この少年、小さな身体にどんだけプレッシャーを抱えるんだ。
試練が大きい分、物語の結末のカタルシスも大きい。よかったねと、親のような心持ちで読み進めた。
試練に臨み、逃げ腰になりながらも生きていく主人公。前向きなヒーローからは接種出来ない味わいが、そこにある。
二巻を読み終え、本屋さんで一巻を手に取る。次は何巻で、泰麒と再会出来るだろうか。沼に、片足を突っ込んだかもしれない。