『シンベリン』
原題:Cymbeline
作:ウィリアム・シェイクスピア
執筆:1609年
訳:松岡和子(ちくま文庫)
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「君に対して揮える力があるなら、その力で君を救う、君に対して恨みがあるなら、その恨みを赦しに変える。生きて、人々にもっといい付き合いをしろ」

身分違いの恋からの追放劇、
行方不明の二人の王子の帰還劇、
男装したお姫様の冒険劇、
ブリテンとローマの戦争歴史劇、
果ては神様が降臨して全てを解決していくデウス・エクス・マキナ!
これほんとに一本の物語なの!?と思うほどに色んな事が巻き起こるシェイクスピア後期の作品『シンベリン』
サービス精神満載のエンタメと受け取るか、ごちゃごちゃした迷作と取るかは、あなた次第…?
それにしても主役のシンベリン、影薄くない?

あらすじは?と考えても、色々要素が絡みすぎてどこをどう説明したら良いのやら、となるほどてんこもり。
タイトルロールのシンベリンさんはあんまり登場せず、メインストーリーっぽいのはシンベリンの娘イノジェンと、その恋人リオナータスの恋物語だろうか。
そこにブリテンとローマの戦争・イノジェンの行方不明の二人の兄の帰還が組み合わさって織りなされる物語。
ラスト近くはジュピターが降臨してなんかめでたい感じで終わる。

感想を一分間の動画にしました



【収録】
『シンベリン』
作:ウィリアム・シェイクスピア
訳:松岡和子
2012年 ちくま文庫

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【ネタバレあらすじメモ】


★第一幕★

第一場 ブリテン、シンベリンの王宮
紳士二人が話している。話題は王の娘が後妻の息子と結婚する予定だったが他の紳士・リオナータスと結ばれようとし王が激怒したこと、娘は監禁、リオナータスは追放されたこと、リオナータスは王に見込まれ養育されたエリートであること、また王には昔王子が二人いたが20年前、共に子供の時にさらわれたこと。恐ろしい情報量。

第二場
ポステュマス・リオナータスとイノジェン(結ばれるはずだった二人)と王妃がやってくる。王妃は二人の味方のような事を言い去る。ポステュマスはローマに行きフィラーリオという人物の所へ滞在するから手紙をくれとイノジェンに告げる。別れを惜しむ二人は指輪とブレスレットを送り合う。
王・シンベリン登場。ポステュマスはすぐに出ていき、シンベリンは娘に怒りの言葉を吐きまくり去る。
残るイノジェンと王妃のもとに、ポステュマスの召使ピザーニオがやってくる。王妃の息子とポステュマスが斬りあったとのこと。ポステュマスはものともせずに戦い、国を去った、以後はイノジェンに仕えるように言われたとのこと。

第三場 前場に同じ
王妃の連れ子でイノジェンに振られたクロートンが、貴族二人を連れて出てくる。ポステュマスと戦いにもならなかった彼の腕前を褒める貴族、くさす貴族。

第四場 前場に同じ
ピザーニオから、ポステュマス出発の様子を聞き嘆くイノジェン。

第五場 ローマ、フィラーリオの邸
フィラーリオの屋敷ではやがて迎えるポステュマスの話をしている。フィラーリオの友人のヤーキモーはあまりポステュマスの事をよく思っていない様子。
ポステュマスが来る。フランス人が、かつてポステュマスが起こした諍いについて言及する。ポステュマスは愛するイノジェンが世界一の女性だと主張し、それに反対する男と喧嘩になったことがある。ここでヤーキモーはイタリア人女性の方が優れていると挑発し、喧嘩に。ヤーキモーはイノジェンを自分の物にすることでポステュマスを負かしたいと主張。ポステュマスは出来るものならやってみろと煽り、ヤーキモーがイノジェンの貞節を奪えるか否かの賭けになる。ヤーキモーは全財産を賭ける。

第六場 ブリテン、シンベリンの王宮
王妃は侍医に劇薬を調合させる。侍医は不審に思う。
ピザーニオがくる。侍医は下がれと命じられる。侍医は独白で、自分が調合したのは偽の毒薬、一時息が止まり死んだようになるが元気に蘇生する薬だ、と説明し去る。
王妃はピザーニオの目の前で薬の箱を落とし拾わせる。命を救う強壮剤だと説明し、彼に預ける。また、イノジェンに自分の息子の愛を受け入れるように、とも説得する。そうすれば高い地位を約束する、と。
王やイノジェンをあわよくば毒殺する心づもり。ピザーニオの心はまるで揺らがない。

第七場 前場に同じ
イノジェンは一人、自分の身の上を嘆いている。
ピザーニオがポステュマスの紹介状を持ったヤーキモーを連れてくる。ヤーキモーはイノジェンの美しさを認めるが、早速口説きにかかる。ヤーキモーはポステュマスがローマで女遊びに耽っていること、それに復讐するために自分と寝てくれと口説くが、イノジェンはきっぱり拒否。その姿勢に感銘を受け、ヤーキモーは今の話が嘘であったと謝罪する。その上で、自分はポステュマスたちと共にローマ皇帝に贈り物をする、その贈り物を一晩部屋に保管させてほしいと願い出る。歓迎するイノジェン。


★第二幕★

第一場 ブリテン、シンベリンの王宮の前
クロートンが取り巻き貴族たちと会話。クロートンはローマからポステュマスの友人が来たと聞き、金を巻き上げようと計画する。貴族2、主人の馬鹿さと姫の気の毒さを嘆く。

第二場 イノジェンの寝室、トランクが置かれている
イノジェンが眠りにつくと、のんと置いてあるトランクからヤーキモー登場。イノジェンの部屋の様子や彼女の身体的特徴をメモする。彼女をものにしたと思わせるためだ。ブレスレットを奪い、トランクに戻る。

第三場 ブリテン、シンベリンの王宮
クロートンは朝方にイノジェンに歌を捧げる。
シンベリンと王妃登場。二人はクロートンにアドバイス。ローマから使者が来たというので去っていく。
クロートンはイノジェンの寝室の前で、女官を自分の味方になるよう買収しようとする。女官はイノジェンを呼ぶ。
イノジェンはクロートンの求愛を断り続ける。途中で無くなったブレスレットを探すようにピザーニオを呼びつける。クロートンは侮辱され、仕返しを決意。

第四場 ローマ、フィラーリオの邸
ローマとブリテンの外交について話すフィラーリオとポステュマス。戦争になる可能性が高い。
ヤーキモーが戻る。彼はイノジェンの部屋の様子を語り、ついで盗んだブレスレットを見せ、ダメ押しにほくろの位置を語るとポステュマスは絶望し逆上、イノジェンを八つ裂きにするためにブリテンに戻るという。フィラーリオとヤーキモーは彼を追いかける。
ポステュマス独白。女全般を呪う激しい怒り。


★第三幕★

第一場 ブリテン、シンベリンの王宮
シンベリン・王妃・クロートンがローマからの使者・ルーシアスと話す公式の場。シンベリンはローマに年貢を納めることを拒否、ルーシアスは宣戦布告を伝える。その後ルーシアスをもてなす(国と個人の切り替え)一同。

第二場 前場に同じ
ピザーニオはポステュマスからの手紙を読んでいる。その手紙にはイノジェンを殺せと書いてある。そんな命には従わないとピザーニオ。
イノジェンがやってくる。彼女宛のポステュマスからの手紙には、ウェールズ・ミルフォードにいる、と書いてある。イノジェンは早速向かう準備をする。

第三場 ウェールズ、ベラリアスの岩穴の前
ベラリアスと息子のギデリアス、アーヴィレイガス。ギデリアスはかつてシンベリンに重用されていたが、ローマと通じていると疑われ追放された。その際に拐った二人の息子が、今彼と共に、その事実を知らずに暮らしているのだ。

第四場 ミルフォード・ヘイヴン近くの田舎道
ピザーニオとイノジェンがミルフォードへ向かっている。ピザーニオは耐えかねてポステュマスからの手紙をイノジェンに見せる。
そこにはイノジェンを殺すようにと書かれている。ピザーニオは、ポステュマスが誰かに騙されているのだと推理し、真相を突き止めるべく冒険をしようとイノジェンに提案。ローマからの使いがちょうど来ているので、男装してその人に弟子入りするように勧める。ポステュマスにはイノジェンが死んだと伝えて様子を見ようと。受け入れるイノジェン。別れ際にピザーニオは、王妃から貰った薬をイノジェンに渡す。

第五場 ブリテン、シンベリンの王宮
ローマ使節のルーシアスが帰っていく。シンベリンは娘の姿を全く見ないと嘆き去っていく。王妃も息子のクロートンに彼女の様子を探らせる。
クロートンはイノジェンが逃亡したことを知らせる。王妃は好都合だと去っていく。
ピザーニオがやってきて、クロートンに手紙を渡す。ポステュマスからイノジェンに送られた手紙だ。それを見たクロートンはピザーニオに自分の家来になるように告げ、ミルフォードへ向かう決心をする。ピザーニオはシンベリンに、イノジェンは死んだと手紙を書く計画を立てる。
クロートンはミルフォードでポステュマスを殺し、イノジェンを奪うつもり。

第六場 ウェールズ、ベラリアスの岩穴の前
イノジェンは男装してさまよっていると、ベラリアスの岩穴の前に辿り着く。意を決して中へ。

第七場 前場に同じ
ベラリアス、ギデリアス、アーヴィレイガスが帰ってくると、岩穴に入り食べ物を漁っているイノジェンに出会う。イノジェンは盗むつもりはなかったこと、支払う金があることなどなど釈明。三人はイノジェンの魅力に打たれ、惚れ込む。イノジェンはフィデーリと名乗り、イタリアに向かっていると告げる。
イノジェンもギデリアス・アーヴィレイガスの二人に対し「自分の兄ならよかった」というほどに親密な情を抱く。

第八場 ローマ、広場
ローマで対ブリテン戦争の会議が開かれている。兵力が足りず、ブリテン戦争の指揮官はルーシアスが任される事になる。


★第四幕★

第一場 ウェールズ
クロートンが一人でムニャムニャ言ってる。ポステュマスとイノジェンが落ち合う予定の地点に着く。

第二場 ベラリアスの岩穴の前
ベラリアス、ギデリアス、アーヴィレイガス、イノジェンは狩りに出ようとしているがイノジェンの気分が優れない。イノジェンはピザーニオから貰った(ピザーニオが王妃から貰った毒薬)薬を飲んでみようかと考える。イノジェンは奥に去り、三人はイノジェンを讃える。
そこにクロートン。ベラリアスはクロートンを知っているので、子供二人を始末に来たのかと考える。ギデリアスの指示でベラリアスとアーヴィレイガスは周囲の偵察に出、ギデリアスはクロートンと話をする。
口論の末二人は斬り合いながらどこかへ。
ベラリアスとアーヴィレイガスが戻る。探しても援軍は見当たらなかった。
ギデリアスがクロートンの生首を抱えて戻る。ベラリアスは事の重大さに怯える。クロートンは一人で来るなどという勇気はないからお付きのものがいるはずだ、見つかったらえらいことだと。ギデリアスは怯える素振りもなく首を捨てに行く。
アーヴィレイガスはイノジェンの様子を見に行く。
ギデリアス、クロートンの首を捨てて帰ってくる。洞穴の中から厳粛な音楽が聞こえ、やがてアーヴィレイガスが死んだイノジェンを抱えて出てくる。
嘆く一同はイノジェンを埋葬する準備をする。ベラリアス去る。
ギデリアスとアーヴィレイガスは追悼の歌を歌う。
ベラリアスはクロートンの死体(体部分)を持って登場。三人で二つの死を悼み、去る。
イノジェンは目を覚ます。隣にある死体に気付き、ポステュマスの物と勘違い(クロートンはポステュマスの服を着ている)イノジェンはピザーニオがクロートンと共にポステュマスを殺害したと勘違いし嘆く。
行軍中のルーシアスがこの場面に出会い、イノジェンを部下に迎え、クロートンの死骸を手厚く葬る。

第三場 ブリテン、シンベリンの王宮の一室
シンベリンの身の回りにはイノジェンもいない、クロートンも行方知れず、そして妃は熱を出して倒れると、トラブル続きで、彼は心細くなる。ピザーニオにイノジェンの行方を激しく訪ねるが知らないらしい。
ピザーニオはポステュマスからもイノジェンからも連絡が途絶えていることが気になるが、目の前の戦争で全力を尽くす事を頑張る。

第四場 ウェールズ、ベラリアスの岩穴の前
辺りが戦争で騒がしい。心配するベラリアスをよそに、ギデリアス・アーヴィレイガスは戦場に出たがる。ベラリアスも決意し、三人は戦いに身を投じる。


★第五幕★

第一場 ブリテン、ローマ軍の陣営
ポステュマスの独白。彼はイノジェンの死の知らせに絶望している。ローマ軍に紛れ込みブリテンと戦うつもりだったが、今度はブリテン人の格好をし、戦って死ぬことを決意する。

第二場 ブリテン陣営とローマ陣営のあいだの戦場
ポステュマスは百姓の格好で戦いヤーキモーに勝つ。
続いて、捕虜になったシンベリンをベラリアスと息子二人が救出。
ルーシアスはローマ軍に加わるイノジェンに下がるよう指示。ベラリアスらの働きで形勢が不利になったからだ。

第三場 戦場の別の場所
ポステュマスが逃げ出したブリテン貴族と話している。ポステュマスは一人の老人と二人の子どものために形勢がブリテン側に傾いた事を告げるが貴族は逃亡する。
ポステュマスはとにかく死にたいので、劣勢のローマ兵を名乗ることにする。
ローマの司令官・ルーシアスを捕えた兵らが彼をも捉え、シンベリンの前に引き出す。ポステュマスは牢番に引き渡される。

第四場 ブリテン、ブリテン軍の陣営近くの原野
ポステュマスが捕らわれている。彼は死を願い眠りにつく。
と、彼の父を始めとした亡霊たちが彼を取り囲む。亡霊たちはジュピター神に対し恨み言を言う。なぜこのように落ちるまでポステュマスを守らなかったのかと。
ジュピターが降臨し、亡霊たちを一喝、その後ポステュマスの旨にこれから起きることが書かれた書物を置き天に帰る。
亡霊たちもポステュマスが救われることを確信し天へ。
ポステュマスは目を覚まし書物を読む。
牢番がやってきて、続いて使者も。ポステュマスは王の前に引き出される。

第五場 シンベリンの陣
ベラリアスらがシンベリンから戦いぶりを褒められる。
続いて王妃が亡くなったとの報せ。狂乱した王妃は死の間際、シンベリンを愛していなかったこと、イノジェンも王も毒薬で殺そうとしていたことなどを告白したという。
ルーシアスらが捕らえられてやってくる。ルーシアスは小姓のイノジェンだけは助けてくれとシンベリンに嘆願し、シンベリンもそれを受け入れ、イノジェンの願いを何でも聞くと言う。ベラリアスらはイノジェンが死んだと思っていたあの子にそっくりなのでよく観察する。
イノジェンはヤーキモーが身につけている指輪をどう入手したのかを彼に語らせるよう望む。ヤーキモーはポステュマスと賭けをしたこと、賭けには負けたが指輪などを証拠に彼を騙した事を告げる。ポステュマスは自分が騙されてイノジェンを殺した(と思い込んでいる)ことを知り嘆く。イノジェンは彼に呼びかけるが小姓の姿なので気付かれず、ポステュマスに殴られる。それを見たピザーニオは彼はイノジェンだと告白しイノジェンを助け起こす。イノジェンはピザーニオに、薬の件で怒り、それを聞いた侍医のコーネリアスは王妃が毒薬を作っていたこと、危険を察知したコーネリアスは一時的に死んだようになるがすぐに元気を取り戻す薬に作り変えた事を告白。
シンベリンもポステュマスもイノジェンとの再会を喜ぶ。ベラリアスらもイノジェンが生きていたと知り安心。ベラリアスはイノジェンが王の娘だと知り、息子二人が彼女に親愛の情を抱いたことに納得する。
続いてクロートンの行方の話になり、ピザーニオは彼がミルフォードへイノジェンを捕えに行ったことを告げる。それを聞いたギデリアスはクロートンに侮辱されたために殺したと告白。戦で手柄を立てたギデリアスに死刑を宣告するのをためらいつつも、法にのっとりシンベリンはギデリアスに死刑を宣告。
ベラリアスは物申し、自らと二人の息子の事を話し始める。
自分がかつて謀反人として追放されたベラリアスであること、自分の息子二人は王の息子だということを告白。シンベリンは彼を赦し息子たちを迎える。
ポステュマスもまたヤーキモーを赦し、赦しのムードが広がる。ポステュマスはジュピターから授かった予言書を皆に見せ、それは今のこの状況だと確認する。
ローマのルーシアスに対しシンベリンは、勝利者ではあるが再びローマに年貢を収める事を誓う。邪悪な妃にそそのかされて戦争をしてしまったのだ、と。
平和条約は結ばれ、なんか平和な感じで幕を閉じる。