『新ハムレット』
作:太宰治
初出:1941年
太宰治が描くシェイクスピアの『ハムレット』
『ハムレット』を下敷きに進んで行く感が序盤は色濃く、シーンの進行も「あのシーンだ!」となるのだけれど、中盤から登場人物たちが様々に愚痴り始め、全員が太宰治状態になってカオスに突入していくのが面白い。
書いてる途中でやりたいこと変わったんだろうか。
世代間の主張の違いや、愛は言葉にすべきものか否か、などの問題が大きなトピックになり、『ハムレット』において肝心な「先王の死」については半ば放り出した印象にさえなる…ものの、しっかりそこに帰ってくる。
太宰治の冗舌な蛇行運転はどこかシェイクスピアの言葉のリズムのようにも感じられて面白い。
戯曲の体は取っているものの、太宰治によれば上演を前提としない「読む戯曲」=「レーゼドラマ」と呼ばれる形式を意識したものらしく、場面転換なども結構唐突に起こる印象だった。
それでも繰り返し上演されてきたそうで、最近までPARCO劇場でも上演されていた。
悩みまくり愚痴り倒す人々の姿が、時代を越えても愛されているのだろう。
城壁で、ハムレットの悩みを聞くよりも寒さに耐えられなくなるホレーショーが印象的でした。
私、一人で全役読む朗読音源を作りましたので、ご興味あれば【こちらのリンクから】ご視聴いただければ幸いです。

【収録】
『新ハムレット』
著:太宰治
新潮文庫
【書籍情報はこちら】
【ネタバレあらすじメモ】
場所 デンマークの首府エルシノア
一 エルシノア王城 城内の大広間
ハムレットの叔父によるデンマーク引継ぎ演説。大学に戻りたがるハムレットを必死に引き止めるクローヂヤス。
二 ポローニヤス邸の一室
フランスへ向かうレヤチーズを見送るオフィリヤとポローニヤス。レヤチーズはハムレットとオフィリヤの仲に釘を刺す。
さらにポローニヤスも、なぜ素直に言わなかったのだ、こう噂が立ってからでは遅いと詰め寄る。
三 高台
クローヂヤスから呼ばれて来たホレーショーがハムレットと会話。
ホレーショーはウイッタンバーグの大学で、ハムレット発狂の噂があること、そして先王の亡霊が夜毎、クローヂヤスに殺された、復讐を!と訴えているという馬鹿な噂があることを告げる。
ハムレットは自分の家がそんな根も葉もない噂を立てられていることに怒り、叔父に問いただそうと決意を固める。
ついでに秘密を打ち明けようとするのだが、ホレーショーは寒いからと持ち越しにする。
四 王妃の居間
ガーツルードと話すホレーショー。
昨夜大事な話を聞き損ねた上に余計な疑いを吹き込んでしまったと後悔。
そこへ王がやってきて、オフィリヤが妊娠したという事実を告げる。
この辺りで皆が先走ってわちゃわちゃするのが面白い。
王はオフィリヤにしばらく田舎に引き込んでもらって事をおさめようとする。ホレーショーはハムレットから本心を聞き出すための使いとなる。
ハムレットはイギリスから嫁を貰うことになっているというのだ。
五 廊下
ハムレットとポローニヤス。ポローニヤスが「噂」の事を言い出す。彼はもちろんオフィリヤ妊娠の事を言うのだが、ハムレットは先王暗殺の事と取り話が混雑。
のち、ポローニヤスは娘の妊娠を打ち明けハムレットを問い詰める。
ハムレットはもちろん結婚するつもり、今はそれより、と話を進めるがポローニヤスは娘の事で夢中で話が進まない。正直に話そうとすればするほど、話をはぐらかすなと言われるもどかしさ。
だが一転、ポローニヤスは一家を救うためにある事を打ち明ける、と言い出す、がそこにホレーショーがやってくる。
ホレーショーは王から全部聞いた、とハムレットに話しかける。二人は照れくさくて組み討ちを始める。
ホレーショーはオフィリヤの妊娠問題について、王は当てにならない、オフィリヤを何ヶ月か田舎にやって忘れさせるつもりだ、この件は王妃を頼ろうと言い出す。
ハムレットはどうしていいか悩んでいて、ここでto be or…と口にする。
ポローニヤスはついに打ち明ける。王の本心が読めず、あの噂の真相を確かめたい、仲間に加えてくれと。
六 庭園
王妃とオフィリヤ。
オフィリヤは王妃と妊娠についての話をし、次いで、自分が本当に慕っているのは王妃なのだと口にする。
二人は親密に色んなことを話す。
七 城内の一室
ハムレット独白。叔父と母の関係を探るために、ハムレット、ポローニヤス、ホレーショーで朗読劇をやることになったことが語られる。
ポローニヤス来る。ハムレットは彼に「叔父が可哀想になった、劇を中止しよう」と告げるがポローニヤスは真実の探求を止めようとしない。
王、王妃、ホレーショーら来る。花嫁が亡霊の恋人に連れ去られる、という筋の劇が行われ、王妃は見ていられなくなり席を立つ(シェイクスピアでは王だが…)。王は結構余裕で楽しんでいる。
一同去り、出演者の三人が残る。
ハムレットは、何の収穫も得られなかったと愚痴るがポローニヤスは「まぁ見ていなさい」と依然やる気である。
八 王の居間
王に説教されるポローニヤス。こんなことをしてオフィリヤの妊娠問題をチャラにしようとしているのだろう、と。ポローニヤスは言う、オフィリヤの件は覚悟は出来ている、オフィリヤは人目を忍んで出産、レヤチーズの遊学は中止、自分は職を辞するのが妥当だと。だが問題は正義なのだと。
王はポローニヤスの口ぶりに辟易するがポローニヤスは止まらない。先王の死についての噂を信じていると告げる。王は当然抗議するが、ポローニヤスは真意は別にあるのだと言う。噂は否定すれば燃え上がるもの、ならばポローニヤスがことさらにうるさく騒ぐことで周囲を呆れさせ鎮火させる作戦だ、現にハムレットも王に同情を示している、これが自分の最後の恩返しだ、と。
王はその主張に呆れ、ポローニヤスに対して「君は王妃の事が昔から好きだったから嫉妬ゆえにこんな事態を起こしたのだ」とあたる。ポローニヤスも喧嘩腰になりヒートアップ。王はポローニヤスを解雇することを告げる。せっかくオフィリヤをハムレットの正式な嫁にしようとしていたのに、王妃もそう頼んでいたからそうしようと思ったのに、と。
そんなことがあるもんか、王様はポローニヤスを失脚させる機会をこの2ヶ月探っていたのだ、だからこそレヤチーズを遊学させることで守ったのにまさかオフィリヤがこんなことになろうとは、おまけに私の策も王様は信じてくれない!と荒ぶるポローニヤス。
王はもう聞く耳を持たない。いよいよ荒ぶるポローニヤスは、2ヶ月前、先王の死の時、自分はたしかに見たのだ、だからこそ罰されるのだと喚く。王は短剣でポローニヤスを刺す。娘可愛さに乱心し暴言を吐く老いぼれを始末するのだと。その目からは涙…何か物音が聞こえたので見ると、ガーツルードが去っていく姿…。
九 城の大広間
ハムレットとオフィリヤ。ポローニヤスが昨夜から姿を見せないと心配するオフィリヤ。ハムレットは「王とポローニヤスは一味だ、あの芝居も噂が嘘だと思わせるためのショーに過ぎなかったのだ」とオフィリヤに自分の考えを話す。
オフィリヤは父も叔父も潔白だし、あんな噂誰も信じていない、あなただけが憂鬱ぶっているのだとハムレットに告げる。
ハムレットも反論。二人はやがて愛は言葉か否かの論戦になる。
と、そこへ王が沢山の侍者を連れてやってくるのでハムレットはオフィリヤを逃し王と対峙。
王は戦争が勃発したと知らせにくる。レヤチーズの船がノーウェーに襲撃され、レヤチーズは勇敢に戦って死んだ、我々も戦うべき時だと。
王は「ポローニヤスがいないと不便だ」などと口走ってしまい、ハムレットに詰問される。王は答える、あれは不忠者だ、だがそれよりも今は…先王殺しに言及するハムレット。
王は打ち明ける。毒殺を決意した一夜はあった、だがそれだけだと。
ハムレットは興奮し自分の頬を短剣で切る。
ホレーショーが、王妃が小川に飛び込んで死んだという知らせを持ってくる。
王は嘆き、ハムレットに同情を求めるが、ハムレットは「自分の疑惑は死ぬまで持ち続ける」と宣言。
幕
作:太宰治
初出:1941年
「僕の疑惑は、僕が死ぬまで持ち続ける」
太宰治が描くシェイクスピアの『ハムレット』
『ハムレット』を下敷きに進んで行く感が序盤は色濃く、シーンの進行も「あのシーンだ!」となるのだけれど、中盤から登場人物たちが様々に愚痴り始め、全員が太宰治状態になってカオスに突入していくのが面白い。
書いてる途中でやりたいこと変わったんだろうか。
世代間の主張の違いや、愛は言葉にすべきものか否か、などの問題が大きなトピックになり、『ハムレット』において肝心な「先王の死」については半ば放り出した印象にさえなる…ものの、しっかりそこに帰ってくる。
太宰治の冗舌な蛇行運転はどこかシェイクスピアの言葉のリズムのようにも感じられて面白い。
戯曲の体は取っているものの、太宰治によれば上演を前提としない「読む戯曲」=「レーゼドラマ」と呼ばれる形式を意識したものらしく、場面転換なども結構唐突に起こる印象だった。
それでも繰り返し上演されてきたそうで、最近までPARCO劇場でも上演されていた。
悩みまくり愚痴り倒す人々の姿が、時代を越えても愛されているのだろう。
城壁で、ハムレットの悩みを聞くよりも寒さに耐えられなくなるホレーショーが印象的でした。
私、一人で全役読む朗読音源を作りましたので、ご興味あれば【こちらのリンクから】ご視聴いただければ幸いです。

【収録】
『新ハムレット』
著:太宰治
新潮文庫
【書籍情報はこちら】
【ネタバレあらすじメモ】
場所 デンマークの首府エルシノア
一 エルシノア王城 城内の大広間
ハムレットの叔父によるデンマーク引継ぎ演説。大学に戻りたがるハムレットを必死に引き止めるクローヂヤス。
二 ポローニヤス邸の一室
フランスへ向かうレヤチーズを見送るオフィリヤとポローニヤス。レヤチーズはハムレットとオフィリヤの仲に釘を刺す。
さらにポローニヤスも、なぜ素直に言わなかったのだ、こう噂が立ってからでは遅いと詰め寄る。
三 高台
クローヂヤスから呼ばれて来たホレーショーがハムレットと会話。
ホレーショーはウイッタンバーグの大学で、ハムレット発狂の噂があること、そして先王の亡霊が夜毎、クローヂヤスに殺された、復讐を!と訴えているという馬鹿な噂があることを告げる。
ハムレットは自分の家がそんな根も葉もない噂を立てられていることに怒り、叔父に問いただそうと決意を固める。
ついでに秘密を打ち明けようとするのだが、ホレーショーは寒いからと持ち越しにする。
四 王妃の居間
ガーツルードと話すホレーショー。
昨夜大事な話を聞き損ねた上に余計な疑いを吹き込んでしまったと後悔。
そこへ王がやってきて、オフィリヤが妊娠したという事実を告げる。
この辺りで皆が先走ってわちゃわちゃするのが面白い。
王はオフィリヤにしばらく田舎に引き込んでもらって事をおさめようとする。ホレーショーはハムレットから本心を聞き出すための使いとなる。
ハムレットはイギリスから嫁を貰うことになっているというのだ。
五 廊下
ハムレットとポローニヤス。ポローニヤスが「噂」の事を言い出す。彼はもちろんオフィリヤ妊娠の事を言うのだが、ハムレットは先王暗殺の事と取り話が混雑。
のち、ポローニヤスは娘の妊娠を打ち明けハムレットを問い詰める。
ハムレットはもちろん結婚するつもり、今はそれより、と話を進めるがポローニヤスは娘の事で夢中で話が進まない。正直に話そうとすればするほど、話をはぐらかすなと言われるもどかしさ。
だが一転、ポローニヤスは一家を救うためにある事を打ち明ける、と言い出す、がそこにホレーショーがやってくる。
ホレーショーは王から全部聞いた、とハムレットに話しかける。二人は照れくさくて組み討ちを始める。
ホレーショーはオフィリヤの妊娠問題について、王は当てにならない、オフィリヤを何ヶ月か田舎にやって忘れさせるつもりだ、この件は王妃を頼ろうと言い出す。
ハムレットはどうしていいか悩んでいて、ここでto be or…と口にする。
ポローニヤスはついに打ち明ける。王の本心が読めず、あの噂の真相を確かめたい、仲間に加えてくれと。
六 庭園
王妃とオフィリヤ。
オフィリヤは王妃と妊娠についての話をし、次いで、自分が本当に慕っているのは王妃なのだと口にする。
二人は親密に色んなことを話す。
七 城内の一室
ハムレット独白。叔父と母の関係を探るために、ハムレット、ポローニヤス、ホレーショーで朗読劇をやることになったことが語られる。
ポローニヤス来る。ハムレットは彼に「叔父が可哀想になった、劇を中止しよう」と告げるがポローニヤスは真実の探求を止めようとしない。
王、王妃、ホレーショーら来る。花嫁が亡霊の恋人に連れ去られる、という筋の劇が行われ、王妃は見ていられなくなり席を立つ(シェイクスピアでは王だが…)。王は結構余裕で楽しんでいる。
一同去り、出演者の三人が残る。
ハムレットは、何の収穫も得られなかったと愚痴るがポローニヤスは「まぁ見ていなさい」と依然やる気である。
八 王の居間
王に説教されるポローニヤス。こんなことをしてオフィリヤの妊娠問題をチャラにしようとしているのだろう、と。ポローニヤスは言う、オフィリヤの件は覚悟は出来ている、オフィリヤは人目を忍んで出産、レヤチーズの遊学は中止、自分は職を辞するのが妥当だと。だが問題は正義なのだと。
王はポローニヤスの口ぶりに辟易するがポローニヤスは止まらない。先王の死についての噂を信じていると告げる。王は当然抗議するが、ポローニヤスは真意は別にあるのだと言う。噂は否定すれば燃え上がるもの、ならばポローニヤスがことさらにうるさく騒ぐことで周囲を呆れさせ鎮火させる作戦だ、現にハムレットも王に同情を示している、これが自分の最後の恩返しだ、と。
王はその主張に呆れ、ポローニヤスに対して「君は王妃の事が昔から好きだったから嫉妬ゆえにこんな事態を起こしたのだ」とあたる。ポローニヤスも喧嘩腰になりヒートアップ。王はポローニヤスを解雇することを告げる。せっかくオフィリヤをハムレットの正式な嫁にしようとしていたのに、王妃もそう頼んでいたからそうしようと思ったのに、と。
そんなことがあるもんか、王様はポローニヤスを失脚させる機会をこの2ヶ月探っていたのだ、だからこそレヤチーズを遊学させることで守ったのにまさかオフィリヤがこんなことになろうとは、おまけに私の策も王様は信じてくれない!と荒ぶるポローニヤス。
王はもう聞く耳を持たない。いよいよ荒ぶるポローニヤスは、2ヶ月前、先王の死の時、自分はたしかに見たのだ、だからこそ罰されるのだと喚く。王は短剣でポローニヤスを刺す。娘可愛さに乱心し暴言を吐く老いぼれを始末するのだと。その目からは涙…何か物音が聞こえたので見ると、ガーツルードが去っていく姿…。
九 城の大広間
ハムレットとオフィリヤ。ポローニヤスが昨夜から姿を見せないと心配するオフィリヤ。ハムレットは「王とポローニヤスは一味だ、あの芝居も噂が嘘だと思わせるためのショーに過ぎなかったのだ」とオフィリヤに自分の考えを話す。
オフィリヤは父も叔父も潔白だし、あんな噂誰も信じていない、あなただけが憂鬱ぶっているのだとハムレットに告げる。
ハムレットも反論。二人はやがて愛は言葉か否かの論戦になる。
と、そこへ王が沢山の侍者を連れてやってくるのでハムレットはオフィリヤを逃し王と対峙。
王は戦争が勃発したと知らせにくる。レヤチーズの船がノーウェーに襲撃され、レヤチーズは勇敢に戦って死んだ、我々も戦うべき時だと。
王は「ポローニヤスがいないと不便だ」などと口走ってしまい、ハムレットに詰問される。王は答える、あれは不忠者だ、だがそれよりも今は…先王殺しに言及するハムレット。
王は打ち明ける。毒殺を決意した一夜はあった、だがそれだけだと。
ハムレットは興奮し自分の頬を短剣で切る。
ホレーショーが、王妃が小川に飛び込んで死んだという知らせを持ってくる。
王は嘆き、ハムレットに同情を求めるが、ハムレットは「自分の疑惑は死ぬまで持ち続ける」と宣言。
幕
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