『岩見重太郎(An Allegory)』
作:菊池寛
発表:1922年4月
初演:1923年1月・浅草公園劇場

「彼奴が居なければ、誰も死ななくて済んだのじゃ。馬鹿奴!」

副題のAllegoryは「寓意」の意味。
ある剣術道場に道場破りの荒くれ者六人が襲来。
道場主は病で腕が動かず、弟子たちが勝負を受けることに。
道場破りたちにことごとく破れる弟子たち、道場の看板危うし!
という所に、道場の者に命を救われ住み込んで働いている男が戦い始め…


一見、道場破りから皆を救う英雄物語、のような描かれ方なのだけど、後半の展開が悲惨。
戦うのが吉か話し合うのが吉か、と深く考えさせられる、後味の悪い戯曲。
争う上で失われる物はたしかにあるのであり、勝利、めでたい!というムードの中でスポットが当たらない「被害」にグッとフォーカスする幕切れのしんどさ。
これ、観終わって拍手喝采しにくい部類の舞台だなぁと思います。好き。

戦って死ぬのは誉なのか、勇とは何か、見つめ直す必要を感じます。


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【収録】
『父帰る・藤十郎の恋−菊池寛戯曲集』
岩波文庫
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【ネタバレあらすじメモ】


江州新田村


豊太閤在世当時


第一場

伊東亙の道場に、道場破りのならず者六人組が来ている。
伊東は自身が病で手が動かぬので、門弟たちに試合をさせるが皆ことごとく負ける。
そこへ下男の重助が駆け付け、六人を倒し追い払う。彼は水難でこの道場の者に助けられ住み込んでいたが、実は武勇の名ある岩見重太郎だった。
彼は六人が帰ってくるかもしれないから追い払う旅に出る、それが恩返しだと告げる。道場の一同に篤くもてなされる。


第二場

門弟たちが岩見の武勇伝に聞き入って酒を呑んでいる所へ、岩見を助けて住まわせている村松親子が六人組に斬り殺され、他にも負傷者が出たとの知らせが来る。
岩見は怒り村松の家に向かうと、程なく道場に六人組がやってくる。彼らは伊東や門弟たちを斬り殺す。
道場破りの際に、話し合いで丸く収めようとしていた山崎も刀を取るが負傷。ところへ岩見が帰還、六人を立ち所に殺す。
駆け付けた役人に事の仔細を尋ねられ、岩見は堂々と着いていく。皆、もてはやして彼を見送る。
後に負傷した山崎一人。
「あいつがいなければこんなことにはならなかったのだ!」と恨みを口にし、幕。