『終わりよければすべてよし』
原題:All's Well That Ends Well
作:ウィリアム・シェイクスピア
1603〜1604年頃

訳:松岡和子(2021年 ちくま文庫)

「人生は、善と悪とをより合わせた糸で編んだ網なのだ」
「恥に抱かれて生きろ、馬鹿にされたら本物の馬鹿になって栄えろ。人間生きてさえいれば、居場所はあるし、暮らしの手立てはある。」
「終わりよければすべてよし、おしまいには王冠が待っています。」
「我々人間は軽率だから間違いを犯しがちで、現に持っている大切なものを過小評価し、それが墓に入って初めて真価を認める」

上演されることが稀だというシェイクスピア作品。
シェイクスピア後期の、問題劇、と言われるジャンルだそう。

主筋はバートラムという貴族の坊っちゃんと、
名医の娘ヘレン(平民)のラブストーリー、なのだけれど、
身分差と、ヘレンの圧倒的な片想いの為に全然恋が上手く行かない。
むひろバートラムは、『夏の夜の夢』の、魔法にかかる前のディミートリアスに勝るとも劣らないレベルでヘレンを嫌悪し、
「お前が俺の子供を身籠ったらその時は夫になろう、ただしその日は永久に来ない」
みたいな言葉を浴びせかけ、彼女を遠ざけるために戦争にまで出かける。
二人は、ヘレンが王様の病気を治した功績で、王の権力とヘレンの希望によって結婚しているのに、だ。
この、望まぬ結婚、という所は、ちくま文庫のあとがきでも書かれているように、
『夏の夜の夢』のハーミアと共通なのだけれど、バートラムに微塵も同情出来ないのが不思議。

バートラムは戦争に出かけた先で別の女・ダイアナに言い寄り、彼女とベッドを共にする。
けれどヘレンは先回りしてダイアナと出会い、
当時の演劇でよく使われたというベッドトリック
(意中の女性だと思ってベッドに入ったら別の女性が待っていた。大抵暗くて、声も出さない約束だから分からない。フランス喜劇とかでよくやってるイメージ)
が巧みに決められ、ヘレンは身籠る。

バートラムのチャラい友人パローレスは徹底的に痛い目に合い、王様からヘレンの死について(ヘレンは巡礼の旅に出て途上で死んだ、という噂がある)バートラムを攻め、バートラムも失った妻への思いが大きくなり改心、
そこへヘレンが登場して、
「バートラムの子供を身籠る」という条件を見事達成した事を報告。
二人は改めて結ばれる、という筋書き。

なんかめでたしめでたしっぽく終わるのだが、
ヘレン、ほんとにそいつでいいんか!?
という感情がラストまでついて回る、全然バートラムの事を好きになれない珍しい戯曲。それだけヒロイン・ヘレンに同情出来るように書かれている気がする。

ただ、人生の格言というべき言いセリフが結構多いので面白く読める。
そして、ヘレンの独白に力強くダイナミックな物が多くてかっこいい。
ちくま文庫あとがきにある通り、シェイクスピア作品でこれだけ女性役に独白が多いのはかなり異例な事である様子。
演出次第・物語の捉え方次第で色んな問題をテーマに出来る戯曲だなと思います。

パローレスがいじめられるところ(目隠しで拷問をほのめかされ、自分の軍隊の悪口を言いまくる)とかは『十二夜』のマルヴォーリオをいじめ抜くシーンに通ずるニュアンス、
後半・ヘレンの復活劇は『冬物語』的な感。


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【収録】
『終わりよければすべてよし』
シェイクスピア全集33
訳:松岡和子
2021年 ちくま文庫
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【ネタバレあらすじメモ】

★第一幕

第一場 ルシヨン、伯爵邸の一室

皆が喪に服している場面から。
バートラムの父が亡くなった様子で、彼は王の元に仕えに行かなければならないらしい。
バートラムの出発を見送る母・伯爵夫人やその侍女ヘレンら。
ヘレンは父の死(彼女の父は医者だったらしい)を哀しむ顔をしてバートラムとの別れを嘆き、一同が出発して一人になると、バートラムとの別れを哀しむ独白。
と、パローレスが来る。彼はバートラムと共に行く男で、有名な嘘つき、言葉上手。
ヘレンはバートラムと処女の守り方について議論しつつ、バートラムが他の女の誘惑に負けないか気を揉む。
パローレスは小姓に呼ばれ出ていく。
ヘレンはバートラムを得るために、彼の父の病気をどうにかしようという企てを独白。何をする気か。

第二場 パリ、王宮

フランス王はフィレンツェとシエナの戦争について、オーストリア公の頼みによりフィレンツェの援軍要請を拒否することに決定。
そこへバートラムが到着。
フランス王は彼の父と旧知の仲。名医(ヘレンの父)が生きていれば、など嘆き、自分も早く死にたいとこぼす。

第三場 ルシヨン、伯爵邸

伯爵夫人(バートラムの母)と執事のリナルドー、道化のラヴァッチ。伯爵夫人は道化に、ヘレンを呼ぶよう言いつける。
リナルドーは、ヘレンがバートラムへの愛を独白するのを見ていたと伯爵夫人に報告。
伯爵夫人は彼を下がらせ、やってきたヘレンの気持ちを探る。
娘と呼べば彼女は涙を浮かべ、バートラムと兄妹にはなりたくないと嘆く。恋を確信した伯爵夫人は、ヘレンがパリに行きたがる理由を訪ねる。
彼女には名医の父の遺した処方箋があり、それで王を治そうというのだ。伯爵夫人は彼女を送り出す、援助は惜しまぬから、と。


★第二幕

第一場 パリ、王宮
王が戦に赴く騎士・GとEを見送る。バートラムとパローレスも彼らを見送る。
ラフューが王の前に。
彼はヘレンを王に引き合わせ、ヘレンは王の病を治すことを誓う。治せれば好きな男を夫に迎える権利を、治せなければ死を、ということになる。

第二場 ルシヨン、伯爵邸
伯爵夫人は道化のラヴァッチに、ヘレン宛の手紙を託す。

第三場 パリ、王宮
バートラム、パローレス、ラフューが王回復の噂をし、王がやってくる。ヘレンの夫選びが始まる。
ヘレンはバートラムを選び、婚儀が行われる。
その間、ラフューとパローレスは大喧嘩になる。
バートラムは再び現れ、嫌な結婚をしたから明日には戦争に行く、妻といたくない、とパローレスに告げる。

第四場 パリ、王宮
ヘレンとラヴァッチの所にパローレスが、バートラムの出立を知らせに来る。

第五場 パリ、王宮
ラフューがバートラムに、パローレスとの和解を取りなしてくれと頼む。そこにパローレスが来て結局喧嘩に。
ラフューは去り、ヘレンが来る。彼女はバートラムの言いつけどおりに家に帰るが、別れのキスを要求。バートラム、キスせず追い立てて、戦争へ向かう。


★第三幕

第一場 フィレンツェ、公爵の宮殿
フィレンツェ公爵はフランスに求めた援軍を断られた事を嘆く。

第二場 ルシヨン、伯爵邸
伯爵夫人とラヴァッチの元に、ヘレンとG卿・E卿がやってくる。
彼女らはバートラムがフィレンツェ側に参戦した事を告げる。
ヘレンは一人になり、自分が姿をくらますことでバートラムを戦争から戻させようと決意の独白。ここ、美しい台詞。

第三場 フィレンツェ
バートラムはフィレンツェの指揮官として戦う。

第四場 ルシヨン、伯爵邸
リナルドーは伯爵夫人にヘレンの手紙を渡す。巡礼の旅に出るという別れの手紙だ。伯爵夫人はすぐにバートラムを呼び戻す手紙を書かせる。そうすればヘレンも戻ってくれるだろうと。

第五場 フィレンツェ
フィレンツェの未亡人、その娘とダイアナ、隣人マリアナらが軍隊見物に来ている。
マリアナはパローレスに口説かれているらしく、彼を非難、ダイアナにも気をつけるよう忠告する。
そこへ巡礼のヘレンがやってくる。彼女らは手柄を立てたバートラムについて語る。どうやらダイアナはバートラムに言い寄られているらしい。ヘレンは彼女らと食事へ向かう。
パローレスは軍鼓を無くした(とても不名誉なことらしい)とかでひどく落ち込んでいる。

第六場 フィレンツェの陣営
バートラムとG卿・E卿。GとEの二人は、パローレスはとんでもない嘘つきだ、今に正体を暴く、と意気込む。
彼の無くした軍鼓を取り戻させるという計画を用意し、自分たちが敵のふりをして彼を捕まえ、バートラムを簡単に裏切る所を見せる、と。
パローレスがやってきて、軍鼓を取り戻す事を誓い去る。
バートラムは計画実行前にE卿を呼び止め、ダイアナに一緒に会いに行くよう頼む。

第七場 フィレンツェ、未亡人の家
ヘレンが未亡人と、バートラムのダイアナへの愛をどう避けるか話している。
ダイアナはバートラムに一族の大事な指輪を要求し、その後会う約束をすることに。
ただ、会いに行くのはヘレンで、これが成功すれば報酬を出す、と。未亡人も話にのる。


★第四幕

第一場 フィレンツェ軍の陣営近く
G卿と部下らがパローレスを捕らえると、パローレスはもう軍の機密を喋ります、と命乞い。パローレスは目隠しされ連れて行かれる。

第二場 フィレンツェ、未亡人の家
バートラムはダイアナを口説く。ダイアナが指輪を望むと、一度は断るがあっさり渡す。
そして今夜ベッドで、その時は口をきいてはいけない、ということになる。

第三場 フィレンツェ軍の陣営
GとEが話をしている。
バートラムは母からの手紙を受け取り、帰国の準備をしているらしい。ヘレンが巡礼の旅の果てに亡くなったらしい、バートラムはダイアナを口説いているらしい、などなど。
二人はバートラムに対し批判的。
そこへバートラム。
パローレスへの質問が始まる。
彼は脅されて軍事機密は漏らすはバートラムたちの悪口は言うはである。
一同は呆れ、正体を明かし、フランスへ。
ここでのパローレスいじめは若干、『十二夜』のマルヴォーリオとか『ウィンザーの陽気な女房たち』のフォルスタッフとかを思い出す。
パローレスはプロの馬鹿として立派な台詞を吐き、結局皆に付いていく。

第四場 フィレンツェ、未亡人の家
ヘレンはバートラムと一晩を過ごした様子。フランス王の元へ急いで戻るようで、その為の助力をダイアナに頼む。

第五場 ルシヨン、伯爵邸
ラヴァッチ、ラフュー、伯爵夫人はヘレンの死を嘆いている。巡礼の旅の途上で死んだという噂だ。
そこへバートラムが戻ってくる。


★第五幕

第一場 マルセイユ
フランス王を訪ねてきたヘレンらは、すれ違いの鷹匠に、王はルシヨンへ向かったと告げられる。
鷹匠に王への請願書を渡し、届けてもらうことに。自分たちも後を追う。

第二場 ルシヨン、伯爵邸
パローレスがラフューに助けを求める。

第三場 前場に同じ
王がやってきてバートラムに会う。
彼にラフューの娘と再婚するよう勧め、バートラムはラフューの娘が初恋の人、彼女のためにヘレンの魅力に気付かなかったのだと弁明。
バートラムはラフューの娘と結婚する事になり、ラフューは贈り物としてバートラムのつけている指輪を手に取る。
次いで王ががその指輪を見ると、それは確かに王がヘレンに与えたもの。
ヘレンは王に
・ベッドでバートラムに渡す
・危機に陥ったとき
でない限り指輪は手放さないと誓っていた。
バートラムは指輪はフィレンツェの娘にもりった物でヘレンの物ではないと主張するが、王はバートラムがヘレンを憎んでいたので殺害して奪ったのだと推理、バートラムは警護のものに連行される。
鷹匠が来て、フィレンツェの女からの請願書を王に渡す。
そこにはダイアナの名前で、バートラムは妻が死んだら自分と結婚すると誓った、それを実行させてくれ、とある。
王はバートラムを呼び出し、そこにダイアナと未亡人も到着。
ダイアナはバートラムに結婚を迫るが、バートラムは「遊んだことくらいはあるバカ女」と彼女を罵り逃げの姿勢。
ラフューは娘との結婚を白紙に戻す。
ダイアナはバートラムに処女を奪われたと訴え、バートラムは彼女は娼婦だと答える(ひどい)
ダイアナが、バートラムの指輪を見せると王は二人の関係を確信。
パローレスも証人によばれてくる。
王はヘレンの指輪の出所を問うがダイアナは答えない。彼女が王の怒りを買い投獄されそうになると、証人としてヘレンが登場。
彼女はバートラムから貰った手紙、自分から指輪を手に入れることが出来、自分の子供を身籠るなら結婚する、という物を披露し、
バートラムは事のいきさつさえ明らかになれば生涯彼女を愛すると誓う。
この手紙は以前、バートラムから絶縁状として叩きつけられたもの。そのような日が来ることはない、と結ばれていた条件をヘレンはクリアしたのだ。
そして、終わりよければすべてよし、王役の発するエピローグセリフで幕は下ろされる。