『或る別れ』
作:北尾亀男(1892〜1958)
1924年
「やっと娘一人を探しあてたと思えば、人のものになっているし……。」


関東大震災の翌年に発表された戯曲。
震災で別れ別れになった父と娘が再会する、というシチュエーションで始まり、
会話中に「娘には一緒に暮らす男がいる」
という事が判明、
一緒に暮らそうという娘に対し、気を遣って出ていく父、という話。

短篇戯曲の中で、
別れ→再会→別れ
という展開が盛り込まれていて、
この二度目の別れにおいては一度目の別れよりも心の距離が出ていそうで物哀しい。
新しい生活が始まっている所に戻ってきた感。

隣家の葬式、忌中の札が劇中に剥がされる様子も劇中にあり、震災後の喪失の哀しみを乗り越えていく雰囲気もありつつの、
新たに哀しみもありつつの、なんとも複雑な印象。


【収録】
『或る別れ』青空文庫





【ネタバレあらすじメモ】

時 大正大地震の翌春
所 山の手の或る公園

震災後すぐ。

娘がバラックで生活していると、父が訪ねてくる。
震災の混乱で離れ離れになっていた様子。
娘は、兄も一緒かと聞くが違うらしい。
娘の様子から父は、誰かと一緒に住んでいるのだと気付く。
印刷所で働く男らしい。
娘は、父もここに来て暮らそうと誘う。
外で話すのもなんだからと、二人、バラックの中へ。

別のバラックの中から男が顔を出す。
この家では葬儀があった。

父がバラックから憂鬱そうに出てくる。
一緒に暮らそうという娘の申し出を、
「そうするとお前が倍以上苦労するから」と断る。
じゃあせめてお昼ごはんでも、いやいや、じゃあこのお金でおそばでも、いやいや、などのやりとり。

去り際に父は娘に、父がここで厄介になるなんてことは言うな、自分も一人の方が気楽だ、と住所だけ告げて帰っていく。