『かへらじと 日本移動演劇連盟のために』
作︰岸田國士
1943年6月
「正直云ふと、赤紙をみて、わしやギョッとした。これで兵隊だ。いつたい役に立つのか?」


松竹国民移動演劇隊のために岸田国士が書き下ろしたという一作。
二幕構成で、かなり多くの人物が登場。

志岐と大坪という仲の良い二人の青年が軸に物語が展開する。
志岐は幼い頃に大坪の片目を事故で潰してしまい、
徴兵にあたり大坪が兵隊になれなかった事を気に病んでいる。
その志岐が今度兵隊に行くことになり、
大坪に心境を吐露する、という一幕。

ついで時間が経過し、
戦死した志岐の死に様を皆が聞く、という二幕になる。
戦士の有様を語る結城の長台詞には臨場感と凄みがある。
そこから劇中劇のように、当時の光景が舞台上に立ち上がる流れが美しい。

ゴリゴリ戦時中に書かれた本なので、
国威発揚的雰囲気がバリバリ漂う。
文学座旗揚げに欠かせないとしていた俳優・友田恭助を早々に戦争で失った岸田國士は、
どういう気持ちで書いてたんだろう。

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【収録】
『岸田國士�掘戰魯筌�ワ演劇文庫
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【ネタバレあらすじメモ】

第一幕 神社の境内

運送業・矢部と郵便局員・小菅が話す。
志岐の所に赤紙が来た。

養鯉業・巽が青年を引き連れてやってくる。
集合時間まであと少しの様子。

僧侶・日了やってくる。
遅れた者には罰金が課されるらしい。

教員の柏原と、旅館の娘・明子が合流。
近所の催し物の会場設営をやるらしい。
芝居、相撲などなど。

志岐やってくる。
皆、おめでとう、など声をかける。
志岐は後で日了と話をしたいと告げる。
一同それぞれの仕事に向かい、残ったのは柏原。
右目の不自由な、焼物屋の大坪やってくる。
少し話すと志岐、出ていく。

大坪、木の根に寝転がる。
矢部と巽戻ってくる。大坪には気付かない。
矢部と巽の友人たちは大方戦争に出てしまった。大坪は目を気にしすぎる、など。
二人出ていく。

小菅、朗読しながら現れる。
うるせぇと追い返す大坪。

青年二人がやってきて喧嘩を始める。
大坪、仲裁に入る。

志岐、妹のふくと共に現れる。
青年たちは出ていく。
志岐は、戦地に行ったら大坪の分も戦ってくると宣言。
志岐と大坪は昔からの友達で、
大坪の目が不自由になったのは志岐が子供の時に遊んでた手作りの矢が命中したため。
大坪の、しきりに戦争に行きたがる様子を見て、志岐は辛い思い。
妹帰る。
二人も作業に出る。

柏原が農事試験場技手の上島、薬屋の川添とともに登場。
ブラスバンドの位置決めをして去る。

小菅、また朗読しながらやってきて腰をおろす。志岐と大坪、戻ってくる。
志岐は大坪に、妹をもらってくれと頼んでいる。
大坪、戦争に行きっこない男だからか?とつっかかり、断る。
大坪は志岐と一緒に戦争に行きたい、一緒に戦いたいと漏らす。
内地でしか出来ないことの為に神様がケガをさせたのかも、と志岐。
また妹をもらってくれという話。
小菅が急に大声で朗読し始める。

柏原、日了、矢部、巽、明子、青年二人現れる。
一同、仕事を終えた様子で、社務所に集まる事になる。

大坪を志岐が呼び止める。
そこへ妹のふく、弁当のゴミを回収しにくる。
志岐は、大坪を口説き落とせなかった、諦めろと告げる。


第二幕 志岐行一の家

仏壇には志岐の遺影。
日了が線香をたいている。一同集まっている。
若者たちの他に、母・きぬ、町長代理・飯田、校長の北野など、年輩の者も。
志岐の戦死から半年。
彼のいた部隊の隊長が、彼の最期を語って聞かせてくれるらしい。

大坪の父親やってくる。
志岐の思い出話など。

在郷軍人分会長の角崎に連れられて、隊長の結城がやってくる。
攻略の難しい敵部隊に志岐が単身突撃して活路を開いた、という結城の長い語り。
そこから暗転して、舞台は戦場の描写になる。

支那民家の一室。
少将と結城、そして志岐。
少将は志岐の活躍を褒めた後、無闇に死にたがるなと告げる。
志岐は、死ぬことでしか働いたと思えない、友の目を潰してしまった過去があるからその分も、と告げる。
少将は激励する。敵をとにかく多く倒せと。

舞台暗転、また志岐の家に戻る。

また結城の語り。翌日の戦闘でも志岐は単独突撃し、そして、帰らぬ人となった。
それを聞いて、いつの間にか来ていた大坪が大声で泣く。
一同、志岐の冥福を祈り、やがて帰っていく。

そして残ったのは志岐の母・きぬ、妹ふく、大坪とその父。
大坪は意を決したように父を呼ぶ。
父は「わかった」と一言、そして、ふくを息子の嫁に貰いたいと告げる。
ふく、あたふたする。
大坪もあたふたする。
いずれ仲人を立てて正式に、と挨拶し帰る父と大坪。
帰り際、大坪とふく、目が合い、微笑む。

幕。