『舞台は夢』訳:井村順一
原題:L'ILLUSION COMIQUE
作:ピエール・コルネイユ(1606〜1684)
1639年
「裏切り者も、裏切られた者も、死者も生者も、芝居が終われば、また、もとの仲間に戻るのだ。」


家出した息子を探す父親が、
魔術師アルカンドルによって息子の生涯の幻影を見せられる、という劇中劇構造でほぼ進む戯曲。
途中しばしばアルカンドルと父親のシーンが挿入されるが、
劇中劇と忘れる程に劇中劇が長い。

だがこの劇中劇構造が、とても意味ある形で回収され、大団円に辿り着くので、
構造として非常に面白い。
古典戯曲にしては珍しい構造なんじゃなかろうかと思う。

ラストシーン、いわば演劇万歳みたいな事で終わるのも清々しい。
当時は演劇万歳=演劇の保護者・リシュリュー万歳みたいな政治的あれがあったらしいが、
今から観れば演劇の素晴らしさを説く要素だけしっかり伝わる。

劇中劇は、男がやってきて、恋をして、
というお決まりの喜劇の様子から始まり、
途中で意図せぬ殺人、囚われの身、脱走、
という悲劇的要素がはさまり、
また恋、殺人、という繰り返しが行われる。

悲劇パートに突入した際の独白に凄みがあって、引き込まれる。
「好きな人を失うか、侮辱する人を助けるか!愛する人を破滅させるか、恥をかかせる人を愛するか!」3幕6景


喜劇パートは全体に、
「本当の愛とは」みたいな事に焦点が当てられる。
「ほんとうの愛は、愛したいと思う人に注がれるもの。財産や身分が気になるとすれば、それは欲の皮のつっぱった愛か、野心たっぷりの愛。」2幕5景

「愛と結婚はべつのもの、一方には愛する人がいて、もう一方には都合のいい相手がいる。」3幕5景


魔術師アルカンドルはシェイクスピア『テンペスト』プロスペローみたいな風格が漂う。 わりには、出番は少ない。

三幕四景の、コケ脅しの大将マタモールが
自分の怒りの結果焼け落ちる家のパーツを並べ立てる所、『外郎売』的な言葉のリズムの面白さがある名台詞。

日本タイトルの『舞台は夢』というのも、
色々な要素を見事に含んだ名訳だなぁと思う。

Screenshot_20201025-154838~2



【収録】
『嘘つき男・舞台は夢』
作:コルネイユ/訳:岩瀬孝、井村順一
2001年 岩波文庫
【Amazonで購入】


【ネタバレあらすじメモ】

☆第一幕☆

第一景
プリダマンとドラントが、なにやら洞窟を訪れている。
プリダマンは、自身の厳しさゆえに家を飛び出してしまった息子の行方を探し続けて10年、
ついに友人ドラントが太鼓判を押す魔術師に頼ろうとやってきた。

第二景
魔術師アルカンドルが現れ、すぐにプリダマンの悩みを言い当てる。
杖を一振りすると華麗な衣裳たちが現れ、
これは君の息子が着ているものたちだ、と告げる。今は王にも匹敵する身分にいると。
そして、亡霊たちに演じさせ、君の息子のこれまでの人生をプリダマンに見せる事にする。
ドラントは帰らされる。

第三景
アルカンドルがドラントを帰らせたのは、
プリダマンの息子・クランドールが、若者がマネするとよろしくない色々な荒れた生活も過ごしたから。
転々と職を変えた末に彼はラ・モンターニュと名を変え、
隊長の従者となり、その隊長をカモって隊長の恋する女をモノにしようとしている。
ここまでがアルカンドルによる語りで紹介され、
いよいよ幻影たちの劇が幕を開ける。


☆第二幕☆

第一景
早速幻影が現れ始める。
息子とその主人らしい。

第二景
プリダマンの息子・クランドールとその主人マタモール。
軍人マタモールは、神々さえも征服したし、
どんな女神も自分の思いのまま、と大言壮語。
それをおだてるクランドール。
だが、マタモールが恋する女性が恋敵と共に現れると、マタモールは臆病に姿を隠す。

第三景
恋する男アドラストと、マタモールが恋するイザベル。
イザベルはアドラストの愛の告白を冷たくあしらうと、アドラストは、君の父に結婚を頼む!と去る。

第四景
マタモールやってきて愛の告白。
モンターニュを愛の使いにする、自分は別の用事が、と去る。

第五景
モンターニュは愛の告白。
二人は既に両想い。

第六景
アドラストが現れイザベルは去る。
アドラストはモンターニュが主人を欺きイザベルと通じていることに怒り、
二度と近づくなと告げる。
モンターニュ、堂々応戦の構えで去る。

第七景
イザベルの召使いリーズとアドラスト。
アドラストは彼女に金品を与え、二人の密会の場所を教えるように頼む。
そこを襲撃するつもりだ。

第八景
リーズ独白。彼女がモンターニュに冷たくするのは、自分に見向きもしない嫉妬から。
痛い目に合わせてやろう。

第九景
劇を観ているアルカンドルとプリダマン。
はらはらするお父さん。


☆第三幕☆

第一景
イザベルの父ジェロントは、アドラストと結婚するように告げる。イザベルは反発し、去る。

第二景
イライラするジェロント独白。

第三景
そこへやってきたマタモールは、父の許しを得ようとするが、
お前はとんでもない嘘つきだ、今度顔を見せたら下男たちに痛い目に合わせる!と言い切り去る。

第四景
マタモールはモンターニュを使いに送る。
自分が行くと家がことごとく怒りで焼け落ちるから、と家の部位を並べたてる名人芸。

第五景
モンターニュが家に入ると応対するのはリーズ。
モンターニュは彼女の魅力を称賛し、
心は君のもの、イザベルへの愛は財産狙い、と告げるが、すげなくあしらうリーズ。

第六景
名場面、リーズの心が揺れる独白。
結婚はしないが愛人ならと言うモンターニュへの怒り→でもそれもいいかも→名誉を守れ!と動く。

第七景
びびりまくるマタモールの独白。
イザベルとラ・モンターニュが現れ、聞き耳を立てる。

第八景
愛を語り合う二人の様子に我慢しかねて、マタモール飛び出す。

第九景
怒って、死に方を選べとモンターニュに詰め寄るマタモール。
だがもちろんその力はなく、逆にモンターニュに「川に沈めるぞ」と言われ、
イザベルを諦める。

第十景
マタモールはモンターニュに、イザベルを譲る、という形でプライドを保つ。
モンターニュは、ならばイザベルとキスするように命じて下さい、と言い、命じるマタモール。

第十一景
アドラストやジェロントらが姿を現し、モンターニュを討とうとする。
逆にモンターニュはアドラストを殺害、捕らえられる。

第十二景
ハラハラするプリダマンと、まぁまぁ大丈夫と言うアルカンドル。


☆第四幕☆

第一景
イザベル独白。
モンターニュの名はクランドールだと判明している。
もうすぐクランドールの裁判。
イザベルは、あの人が死刑になるなら私も後を追おうと覚悟を決める。

第二景
そこへリーズがやってきて、クランドールを救えるとイザベルに告げる。
牢番の男を色仕掛けでたぶらかし、
牢番✕リーズ、クランドール✕イザベルのカップルが無事にクランドールの故郷に逃げられるように説得した、と告げる。
喜び、計画の準備に去るイザベル。

第三景
リーズの独白。
復讐のためにクランドールを追い込んだが我慢が出来なくなった事を漏らす。
これからはちゃんと妻を愛し、自分への思いを捨てることが自分への恩返しだ、と。
自分の結婚も、クランドールの熱を冷ますため。

第四景
イザベルがマタモールとやってくる。
マタモールは、四日前の大騒ぎ以来、怖くてイザベルの家の天井裏に隠れていたのだが、お腹が減って降りてきた。
それを英雄物語のように語るが、イザベルとリーズに真実をつかれキレる。
イザベルが下男たちを呼ぼうとすると、彼は逃走。

第五景
イザベル、準備はまだ全然出来ていない、マタモールを追払うために力を借りに戻ってきたんだ、と。
そこへ牢番やってくる。

第六景
牢番は計画に抜かりがないことを告げる。
いよいよ実行である。

第七景
クランドール、獄中の独白。
「死の暗黒がやって来て、おれの心に数々の不幸を描き出したら、いいか、思い出よ、ものも言えぬこの魂のなかに、すぐさま描いてくれ、とるに足らぬこのおれが、どれほど幸福であったかを。」
悪と不正への憎悪、イザベルへの愛、死への覚悟が滲む名台詞。
ただ、リーズへ心が揺れてた所から急に一途になってるのが心理的に「あれ〜?」とはなる。

第八景
牢番が来て、刑は恩赦により夜に執行される、と告げ、クランドールを連れ出す。

第九景
外で待っていたリーズ、イザベルに合流。

第十景
プリダマン&アルカンドルに戻る。
ほっとするプリダマン。
次は高い身分についた二人の話だ見たまえとアルカンドル。


☆第五幕☆

第一景
アルカンドルが見せるイザベルはすっかり様子が変わっている。リーズは侍女になっている。
アルカンドル、「どんな事があっても私より先にここを出てはいけないよ」とプリダマンに告げる。

第二景
そこは庭園らしい。
となりに住んでいる大公妃殿下とクランドールが夜毎逢引しているとの事で、
現場を押さえようとするイザベルとリーズ。

第三景
クランドールが、浮気相手と間違えてイザベルに抱きつき、「殿下はいない、大丈夫、逃げないで」と全部浮気を喋ってしまう。
喧嘩。
イザベル。
「あなたを拾って隊長にまで育ててくれたフロリラム大公を裏切って、大公妃と浮気をするなんて!」
クランドール。
「それは突発的な愛に負けたから。君への愛には変わりはない」
これに説得されて、浮気の件は許すイザベル。
ただ、この愛は危険だから十分気をつけるように、と。
愛のためなら命も惜しくないと主張するクランドール。
イザベルは、その後罰されるのがあなただけで済むものか、自分も罰されるに決まっている、ならば今死んでしまう、そうすれば心配の必要はない、と。
クランドール、この言葉に目が覚める。
浮気相手ロジーヌ大公妃がやってくる。
イザベルとリーズは隠れる。
クランドール、自分の行いを見ていてくれ、と。

第四景
クランドールは、大公を裏切ることは出来ないからこの愛は終わりと告げる。
納得しないロジーヌはクランドールへの愛をがむしゃらに叫ぶ。

第五景
フロリラムの部下・エラストが現れ、
クランドールを成敗。
クランドール死亡。
エラストの任務はクランドール、ロジーヌを成敗したのち、イザベルをフロリラムのもとへ迎える事。
かねてからイザベルに恋焦がれていたという。

第六景
アルカンドルとプリダマン。
嘆くプリダマンに、アルカンドルは舞台裏を見せる。
すると、金を分配する一同。
プリダマンはさっき死んだ人々が生き返っているのに驚く。
ここから種明かし。
牢屋から脱獄後、一行は役者になり、高い名声を得て芝居をしている、
今や演劇は大流行、不動の地位を獲得、あっぱれあっぱれ!
で終わる。