『門』
著:夏目漱石
夏目漱石の三部作と言われてる作品群の最後がこの『門』
圧倒的に物事が動かない感がある。
『三四郎』でも「停滞した空気感」みたいな事が描かれてた印象だったけど、あれは主人公が若いのでなんだかんだ活発なイメージがあった。
対してこの『門』は、
主人公夫婦が
「高い望みもなくひっそりと暮らしている」
という状態で、本当に、停滞の空気が顕著な気がした。
『三四郎』を読んで、
ストーリーではなく空気感を味わう、
という技に出会ったので読み進められたが、
本当に話が進まない。
何気ない、動かない日常。
そんな中、二人の過去が小出しにされ、
どうやら妻の御米は、夫・宗助の友人と付き合っていたこと、
宗助が御米を奪い取ったらしいことが明かされる。
これは三部作の中間『それから』のメインテーマらしいけど、先に『門』を読んでしまった。
『三四郎』では学生時代、
『それから』では社会に出たてで野心に燃える青年、
『門』では社会から逃れこっそり暮らす中年、
と、主人公こそ違うものの、
まるで一人の人間のライフステージを描くような三部作の展開らしい。
面白い。
文庫のあらすじにも
「不貞の上に生活は成り立つのか」
みたいな事が書いてあるけど、
『門』の作品中でそれが明らかになるのは少し読み進めてから。
ただ最初から、何かから隠れて暮らすような二人の様子で、
「何かがあったらしい」という空気だけは漂っているから興味が引かれる。
そして過去語りがあり、
その過去の因縁と再会した宗助は悶々とする。
これを妻に秘密のままやりすごす事が出来るのか、みたいな物語である。
過去から逃れ続けるのか、過去と向き合うのか。
このあたり(全23章のうちの17章あたり)から物語が動き始め、
タイトルである『門』の意味が回収される。
あとがきには、
タイトルの『門』の回収を急いだ漱石、後半の展開は苦しい、みたいなことが書いてあったが、
私はむしろここから動き出した感があって面白かった。
雰囲気を味わう、漱石三部作。
順序は違ったが『それから』も読んでみたい。
【収録】
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【ネタバレあらすじメモ】
1
宗助と御米夫婦。
岸田國士の『紙風船』みたいなのんびりとした出だし。
宗助は佐伯に手紙を出しに行く。
入れ違いに宗助の弟・小六。
小六は兄を通してしている佐伯への頼み事の様子を伺いに来た。
2
日曜日の散歩を終え家に帰る宗助。
3
宗助、御米、小六で食事。
佐伯のことなど。
宗助は昔、子供があった。
4
過去の話。
父が死んだとき、家財の処分を叔父の佐伯に一任し、小六も預けた。
金の事が引っ掛かったまま、叔父は死ぬ。
小六の学費は打ち切られることになり、
そのため小六は、宗助らに佐伯への取次を頼む。
宗助は、小六を自分の家に置く代わりに、
学費だけは佐伯に出してもらおうと考える。
5
叔母が御米に相談に来る。
宗助は歯痛で医者に行っていて留守。
宗助の歯医者シーンが面白い。秋のような気持ち。
帰って話を聞けば、金は出せないとのこと。
6
屏風を売るか売らないか。
御米の顔色が悪い不吉さ。
屏風の値をつり上げる遊び。
7
夜中に変な音。
近くの坂井さんの家に泥棒らしく、
朝、道に手文庫が落ちていたので届ける。
慌てたようすもなく、話が長い。
金があるものの余裕。
8
小六と二人きり、きまずい御米。
9
坂井と少し親しくなった宗助。
宗助が売った屏風は、倍額以上で坂井が古道具屋から買っていた。
坂井の家に遊びに行ってそんな話などして、
仲良くなる。
子供の事を迷惑だと言いながら楽しそうに話す坂井を、羨ましく思う。
10
小六と御米、少し仲良くなる。
小六は酒を飲み始める。
11
御米の体調が急に悪くなり、医者を呼ぶ。
12
宗助は仕事に出掛け午前中で家に帰ると、
御米がまだ寝ている。
心配になりもう一度医者に来てもらうと、
薬が効きすぎたようだが寝かせておいて大丈夫、との事。
13
坂井の所に出かけた宗助は、子供が楽しそうだったことを御米に告げる。
御米は、うちが寂しいのは子供がいないからか、と問う。
その夜、御米は宗助に、秘密を打ち明ける。
自分は子供が出来ないのだと。
二人には以前、三度の流産・死産の経験がある。
御米はすっかり参ってしまって、
易者に見てもらった所、
「あなたは人にすまないと思っている事がある。その罪が祟っているから決して子は育たない」
と告げられた事を宗助に告白。
宗助は、そんなつまらないことを金を払って聞くもんじゃない、と言い、寝る。
緊張感のある場。
14
二人は世間から隔絶していたが、お互いの仲はよかった。
そして、宗助の学生時代へと話が移る。
御米はもともと安井という宗助の友人と住んでいたが、
どういうわけか宗助とくっついた。
これが二人の過去だ。
15
貧しい二人の大晦日。
16
正月、坂井の所へ。
小六を書生として預かってくれる話、
モンゴル帰りの坂井の弟に会ってみないかという話。弟は、安井という面白い友達を連れてくるという。安井!
17
宗助は沈痛な思いを抱えたまま日々を過ごす。
安井は、もと御米と暮らしていた、宗助が御米を奪い取った男に違いなかった。
一人悶々と悩む中、宗教に救いを求めたい感が起こる。
時間の経過ではなく、心を変えなければ。
『夢十夜』の第二夜感のある面白い部分。
急に話が展開した。
18
寺で生活を始める宗助。
お題を出されるがまるで考えが湧かない。
19
老師に会う。
問いの答えが出せないまま会う気まずさ。
答えは案の定、一蹴される。
20
老師のお話を聞く会に参加する。
21
宗助が帰る日になった。
悟りも何も得られず、来たときと何も変わりがない。
問題は眼前に立ち塞がったまま。
タイトル「門」のイメージが人生に現れる。
22
家に帰りうかない顔の宗助。
坂井の家に恐る恐る赴いてみると、弟と安井とはモンゴル方面へ帰ったという。
自分の名は出さなかったか、など、何一つ問う事も出来ず、
しかし危機が過ぎ去った事にほっとする。
だが、天はこのような試練を繰り返すのだろうと、ずんとした気持ちになる。
23
春の訪れ、しかしまた冬はくる。
晴れ晴れしいようで少し曇りのあるラスト。
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