『じゃじゃ馬馴らし』
原題:The Taming of the Shrew
作:ウィリアム・シェイクスピア
1594年
「いい子だ、いい子だ!さあ、キスしてくれケイト。」
ミュージカルや映画『キス・ミー・ケイト』の原作であるというこの、
『じゃじゃ馬馴らし』
すごい話だった。

雑に言うと、
「生意気な女を男は力ずくで矯正して大人しく飼い慣らすべき」
みたいな事が主題となって、
じゃじゃ馬・キャタリーナを飼い慣らしたペトルーチオさんすごい!
みたいな終わり方をする。
現代でこんな事書く人がいたら猛烈に炎上しそうだけど、作品成立当時はワッハッハと楽しく観てたのだろうか。
しかし面白いのは、
この『じゃじゃ馬馴らし』が、劇中で行われる劇として演じられる点。
この戯曲の序幕として、
酔っ払いのスライが、領主のいたずらで、
居眠り中に領主に仕立てあげられ、
尊い身分となってこと余興を見物する、
という始まり方をする所だ。
一幕一場の時点で、スライは、
「この劇がつまらない」
という態度を露骨に表す。
それ以降、彼は台詞を発しないものの、
終始、「この劇を観る人物」としてどこかに存在する。
この人物の存在によって、
『じゃじゃ馬馴らし』の本体は、
「あなたはこの劇をどう判断しますか?」
という視点を獲得しているように思う。
内容があまりにあまりだから、シェイクスピアが仕掛けた保険か、あるいは単なるお遊びかは分からないけれど、
スライをはじめとする劇中の劇の鑑賞者たちが、
『じゃじゃ馬馴らし』をどう観るか、
ということで、
この作品は全く逆の主張も出来そうな気がする。
彼らがバカウケして観るのと、
冷ややかな視線を送るのとでは、
大分印象が変わってくる。
本当にこれは面白いのか?
笑っていい出来事なのか?
ということを問い続ける構造だと思った。
また、ヒロイン・キャタリーナが、急角度で従順になる所も、
想像の余地があって面白い。
常に言葉で相手を打ちのめすキャタリーナが、
二幕一場で、初めて対等に舌戦出来る相手・ペトルーチオを得る。
松岡訳のあとがきで、
翻訳者の松岡和子さんが語る「言語的相性の良さ」
というのが溢れ出る場面だ。
対等な言葉のラリーが出来るこの二人は、
まさに、相性がいいように見える。
急角度に従順になることの裏には、
キャタリーナとペトルーチオの間に、
一つの、「他の人物たちを翻弄するお遊び」的な密約があったのかも、なんて思って観るのも面白いかもしれない。
あと、この芝居、変装がとてもややこしい。
・ルーセンショー(ピサの紳士、変装してキャンビオー)
・トラーニオ(変装してルーセンショーになる従者)
・ビオンデロ(ルーセンショーの従者、少年)
・ホーテンショー(パドヴァの紳士、変装してリチオ)
・グレミオー(パドヴァの老富豪)
・ペトルーチオ(ヴェローナの紳士、キャタリーナに求婚)
グルーミオ(ペトルーチオの従者)
と、4グループの求婚者が現れる。
そしてその大半が、求婚のために変装し、身分を偽る。
ややこしい。
この中で、変装など使わずに体当たりで勝負をかけたペトルーチオは一線を画した感があるようにも思えるし、
彼は身ぶりの変装はしていないが、
気違いじみた性格の変装をしている、ようにも思える。
結婚は金が全て、と登場から豪語する彼だが、
キャタリーナにはぞっこん惚れた。
ことを祈りたい。
イタリアの伝統喜劇スタイル「コメディア・デラルテ」感が全編に現れているのも面白いところだ。
【収録】
『じゃじゃ馬馴らし シェイクスピア全集20』
訳:松岡和子
ちくま文庫
【宣伝】
シェイクスピアをモチーフに、
LINEスタンプ「ぴあじ」作ってます。

【ネタバレあらすじメモ】
序幕1
イングランドのウォリックシャー。
鋳掛屋のスライが居酒屋のおかみに、
酔っぱらって突っかかる。
そしてスライ、寝る。
狩猟帰りの領主やってきて、スライを発見。
スライを着飾らせて、起きたときびっくりさせるイタズラを考える。
領主だと錯覚させようというのだ。
スライは領主の館に運ばれて行く。
続いて、役者の一行が到着。
役者もこの企みに加担、
小姓には、妻の役が与えられる。
序幕2
領主の館の寝室。
皆はスライを丁重に扱い、錯覚させることに成功。
皆で芝居を観ようということになり、
『じゃじゃ馬馴らし』
が始まる。
第一幕
第一場 パドヴァの広場
金持ちのボンボン・ルーセンショーが、
従者のトラーニオを連れてパドヴァにやってくる。
沢山勉強するぞ!
パドヴァの金持ち・バプティスタ、
長女キャタリーナ、次女ビアンカ現れる。
ビアンカに求婚する老富豪グレミオー、
同じく求婚するホーテンショー。
バプティスタは、長女キャタリーナが結婚するまではビアンカは嫁に出さない、
彼女の家庭教師を探す、と。
脇から様子を見ていたルーセンショーも、ビアンカに興味を示す。
ビアンカは求婚者と面会禁止に。
バプティスタ一行が去った後、
グレミオーとホーテンショーは、
ビアンカと結婚するためにキャタリーナに夫を見つける同盟を結ぶ。
キャタリーナは、
「地獄と結婚するような馬鹿はいない」とこの二人に言われるほどのじゃじゃ馬。
グレミオーとホーテンショーが去ると、
ルーセンショーはトラーニオに恋を打ち明ける。
ルーセンショーがパドヴァでするべき所用は、
トラーニオが身代わりにすることになり、
ルーセンショーはビアンカの家庭教師の座を狙う。
二人は服を取り替える。
そこにもう一人の従者・ビオンデロ。
彼は、トラーニオをルーセンショーと呼び、従者の役をつとめることに。
彼には、ルーセンショーは人を殺してしまったので、逃げるために身代わりが必要、
と告げられる。
ルーセンショーはトラーニオに、
求婚者の一人になるよう告げる。
ここで舞台を観ているスライ、
まだ終わらねぇのかなと口を挟む。
第二場 パドヴァ、ホーテンショーの家の前
ペトルーチオと従者のグルーミオが、
友人のホーテンショーの屋敷を訪ねる。
ホーテンショーとの会話の成り行きで、
金が大好きペトルーチオは、
じゃじゃ馬・キャタリーナに求婚することに。
さらにホーテンショーは、
ペトルーチオに頼み事。
自分をビアンカの家庭教師に推薦してほしい、という。
そこへ、同じく求婚者のグレミオー、変装したルーセンショーと共に通りかかる。
グレミオーは、自分がパトロンになって、ルーセンショー(本物)をビアンカの家庭教師に推薦するという。
ホーテンショーは、その事に遅れは取っていない、
私もいい家庭教師を見つけた、ペトルーチオが推薦してくれる(変装した自分を)と説く。
ホーテンショー&グレミオーは、
ペトルーチオのキャタリーナ求婚をスポンサーとして援護する事に。
さらにそこへトラーニオ(変装してルーセンショーを演じている)とビオンデロ。
トラーニオは一同にビアンカへの求婚を宣言。
ホーテンショー、グレミオー、トラーニオはビアンカへの求婚のライバルになると同時に、
三人でペトルーチオを応援することに。
(ペトルーチオがキャタリーナと結婚すれば、ビアンカへの求婚が可能になるため)
第二幕
第一場 パドヴァ、バプティスタの邸の一室
キャタリーナがビアンカに殴りかかる、自分を馬鹿にしている、と。
バプティスタの屋敷にやってきた一同。
ペトルーチオはリチオ(ホーテンショー)を家庭教師に推薦。
グレミオーはキャンビオー(ルーセンショー)を家庭教師に推薦。
ルーセンショー(トラーニオ)はビアンカに求婚。
家庭教師チームは娘たちのもとへ。
ペトルーチオはキャタリーナとの結婚の話に入る。
持参金の金額を聞き、ペトルーチオは結婚を決心。
父親のバプティスタは娘の心が肝心と言うが、
ペトルーチオは、相手が傲慢なら私は強引だ、と強気の態度。
バプティスタも彼に長女結婚の望みを託す。
そこへ、頭に傷を受けたリチオ(ホーテンショー)登場。
リチオ(ホーテンショー)は、音楽の授業をしていてリュートで頭を殴られ逃げ帰ってきた。
一同はペトルーチオとキャタリーナを引き合わせることにして姿を消す。
ペトルーチオ独白。キャタリーナの言動・行動の真反対を突く作戦。
ペトルーチオとキャタリーナの壮絶な舌戦。
二人が揚げ足を取り合い続ける。
二人とも頭が回る。
そこへバプティスタ、ルーセンショー(トラーニオ)、グレミオー。
ペトルーチオは婚約が成立したと言い、キャタリーナは反発。
だがペトルーチオは、人前ではじゃじゃ馬に振る舞うだけで、既に二人の気持ちは通じあっている、
結婚式の支度を、と場を出ていく。
続いて、ルーセンショー(トラーニオ)とグレミオーがバプティスタに対し、ビアンカを貰いたいと告白。
バプティスタは、財産の多い方に譲ると言い、
二人の財産自慢が始まる。
ルーセンショー(トラーニオ)の金は全部父の金、
財産は上回っているが父の承諾がないと駄目、とし、
今度の日曜・キャタリーナの結婚式までに父親の許しが出るならルーセンショー(トラーニオ)に、
出なければグレミオーにビアンカを嫁がせる事になる。
ルーセンショー(トラーニオ)は、偽の父親もでっち上げなければならなくなる。
第三幕
第一場 パドヴァ、バプティスタの邸
キャンビオー(ルーセンショー)とリチオ(ホーテンショー)がそれぞれ、ビアンカに授業。
キャンビオーはラテン語を翻訳する体で、
自分が本当はルーセンショーであることを告げ、
愛を告白。
すぐにはOKと言わないが、
ビアンカはキャンビオー(ルーセンショー)に気がある素振り。
リチオ(ホーテンショー)の授業は失敗に終わる。
第二場 パドヴァ バプティスタの邸の前
キャタリーナの式の当日、
ペトルーチオが姿を見せない。
キャタリーナは泣いて去る。
場に残されたバプティスタ、ルーセンショー(トラーニオ)、グレミオー、キャンビオー(ルーセンショー)はペトルーチオを待つ。
と、そこへビオンデロが
ペトルーチオがものすごい変な格好をしてこちらに向かってくる、と告げにくる。
ペトルーチオが従者のグルーミオと登場。
バプティスタとルーセンショー(トラーニオ)は、
「その格好で教会に行くつもりか、着替えろ」
と勧めるが、ペトルーチオは断固この格好だと言い、キャタリーナを探しに行く。
後を追うバプティスタとグレミオー、ビオンデロ。
二人きりになったルーセンショー(トラーニオ)とキャンビオー(ルーセンショー)は現状を確認。
父をでっちあげる、またはビアンカに張り付いているリチオ(ホーテンショー)の目を盗んで、
こっさり式を挙げる。
なんにしろ問題はグレミオー、父の説得、そしてリチオだ、と。
そこへグレミオー、教会から戻ってくる。
新郎ペトルーチオがとにかくひどい態度、という話題に。
式から戻ってくる一同。
ペトルーチオはすぐに出発しなければと、
披露宴からキャタリーナを連れて出ていく。
第四幕
第一場 パドヴァ、ペトルーチオの別荘
ペトルーチオの別荘に、部屋を暖めるため先にやってきた従者グルーミオ。
執事のカーティスとの会話。
ペトルーチオとキャタリーナ到着するや、
ペトルーチオは従者たちに当たり散らす。
キャタリーナは、前場から、ペトルーチオの気違いぶりに、周りに気を遣いなだめる、という行動に出ている。
召し使いたちは
「毒をもって毒を制す」と語る。
ペトルーチオ独白。
こうして疲労困憊させるのが、
ペトルーチオ流のじゃじゃ馬の馴らし方。
もっと効果的な方法があれば教えてくれ、と。
第二場 パドヴァ、バプティスタの邸の前
リチオ(ホーテンショー)とルーセンショー(トラーニオ)は、キャンビオー(ルーセンショー)がビアンカに授業する様子、
彼に夢中のビアンカを見る。
リチオ(ホーテンショー)は、
自分はあの女に愛想を尽かした、金持ちの未亡人と結婚すると、
ルーセンショー(トラーニオ)に正体を明かし、去る。
ルーセンショー(トラーニオ)はいちゃつく二人の前に出て、自分もリチオ(ホーテンショー)もビアンカの事を諦めたと告げる。
リチオはじゃじゃ馬馴らしの学校に通う、とも。
そこへビオンデロ。ルーセンショーの父役に格好の人物を見つけたとやってくる。
キャンビオー(ルーセンショー)とビアンカは奥へ去り、
商人がやってくる。
リチオ(ホーテンショー)は商人に、
今この地はあなたの故郷と争いの状態にあり、
身を守るには自分の父のふりをするのが適切、
と嘘を吹き込み、うまいこと父親の役を演じさせる用意。
第三場 ペトルーチオの別荘
ペトルーチオの策略で何も食べていないキャタリーナは、グルーミオに食べ物を乞うが結局貰えない。
ペトルーチオとホーテンショーがやってきて、
ペトルーチオの手料理を二人に振る舞うという。
ペトルーチオは、ホーテンショーが一人で全て平らげることを願う。
そこへ仕立屋、帽子屋。
帽子もドレスもキャタリーナは気に入るが、
ペトルーチオとグルーミオは難癖をつけて追い返す。
この騒ぎで空腹のキャタリーナの怒りもうやむやに。
キャタリーナの提案をことごとく叱りつけ、うやむやにしていくペトルーチオ。
第四場 バプティスタの邸の前
ルーセンショー(トラーニオ)とヴィンセンショー(商人、ルーセンショーの父に扮する)はバプティスタを訪ね、結婚の約束を取り付ける。
すぐに教会で式を挙げることになり、
教会へはキャンビオー(ルーセンショー)が付き添うことに。
第五場 街道
バプティスタのもとへ向かうペトルーチオ、キャタリーナ、ホーテンショーら。
ペトルーチオは道でも大変なわがままを発揮し、
ついにキャタリーナはそれに従うようになる。
途中ヴィンセンショー(本物の、ルーセンショーの父)に出会い、
ルーセンショーとビアンカの結婚の事を告げ、
共にバプティスタのもとへ向かうことにする。
第五幕
第一場 パドヴァ、ルーセンショーの家の前
ルーセンショー(本物)とビアンカは式場へ向かう。
ペトルーチオらが到着。
ヴィンセンショーが息子に会おうとドアを叩くと商人(偽ヴィンセンショー)が顔を出し、
ヴィンセンショーに偽物の嫌疑をかける。
そこへ、ルーセンショーとビアンカが教会へ入るのを見届けたビオンデロが帰って来る。
ビオンデロは本物を前にとぼけ続け、殴られる。
騒ぎになり、ルーセンショー(トラーニオ)とバプティスタ登場。
トラーニオもとぼけ続け、ヴィンセンショーを、
偽ヴィンセンショーとして役人に捕らえさせようとする。
グレミオーは、本物のヴィンセンショーこそが本物のヴィンセンショーだと主張するが、決め手がなく主張しきれない。
そこへ式を挙げたルーセンショーとビアンカ登場。
ルーセンショーは全ての種を明かし、
結婚を報告する。
ヴィンセンショーはトラーニオへの怒りおさまらず、
バプティスタも真相解明のため姿を消す。
グレミオー、ルーセンショー夫妻も後を追う。
全てを見ていたペトルーチオとキャタリーナも後を追おうとする。
その前にまずキスしてくれ(キスミーケイト)とペトルーチオ。
キスする。
第二場 ルーセンショーの宿の一室
披露宴を終え、ルーセンショーの家で宴を開く一同。なんか楽しくやる。
ホーテンショーは未亡人と結婚した様子。
ペトルーチオ、ルーセンショー、ホーテンショーは、
妻を呼んで誰が一番早く来るかで賭けを始める。
キャタリーナだけがすぐ登場。
ペトルーチオは、ビアンカと未亡人を読んでくるよう言いつける。
ペトルーチオはキャタリーナに、
夫に尽くすことの大切さをビアンカ、未亡人に語れと命令。
キャタリーナは夫を敬うことの大切さを二人に説く。
満足したペトルーチオはキャタリーナとベッドへ向かう。
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