『タイタス・アンドロニカス』
原題:Titus Andronicus
作:ウィリアム・シェイクスピア
1590年前後

シェイクスピア初期の悲劇。
圧倒的に残酷で激烈な復讐連鎖劇にびっくりする。
ローマの将軍タイタスが征服して連れ帰ったゴート族の女王タモーラ。
タモーラはローマ皇帝に取り入り、
一族の復讐を開始、
さらにタイタスがその復讐の復讐を開始と、
互いが絶滅するまで止まりそうにない復讐の連鎖がすごい。
三幕一場は特に激動。
悲しみに重なる悲しみ。
人の悲しみの感情にはまだ上があるのかとびっくりするほど、不幸な事が連続して起こる。
松岡和子訳での初演のタイタス、
吉田鋼太郎さんがこの場面、ほんとに、すごかった。
この人の悲しみの表現にはまだ上があるんだ、と次々思わされた。
未だに思い出す名舞台。
タイタスが半狂乱になってからの感じは、
リア王の狂気も思い起こされる。
が、リア王よりはっきり言って断然ひどい目にあってると思うタイタス将軍。
最終場の、あれよあれよと人が滅びていく様も凄まじい。
結構、好きな戯曲です。
争いって、尽きないな、と思わされます。
【収録】
『タイタス・アンドロニカス シェイクスピア全集12』
訳:松岡和子
2004年 ちくま文庫(し10-12)
【ネタバレあらすじメモ】
第一幕
第一場 ローマ、神殿
ローマの先帝の位継承を巡って、
兄サターナイナスと弟バシエイナスの選挙。
民間からは、ローマ帝国の脅威・ゴート族鎮圧に当たっているタイタス・アンドロニカスが推薦される。
公正な選挙が誓われ、一同解散。
アンドロニカスの凱旋。
彼は死んだ息子の弔いのため、
捕虜にしたゴートの女王タモーラの長男、
アラーバスを生け贄に切り刻ませる。
タモーラは嘆願を退けられ沈痛。
弟ディミートリアスは復讐の機会を待つしかないと告げる。
タイタスの娘ラヴィニア、弟のマーカスらがタイタスを迎える。
マーカスはタイタスに皇帝に立候補することを薦めるが、タイタスは自分は老体だからと退ける。
皇帝候補サターナイナスは、
民衆の心を自分から奪ったとタイタスに憎しみを向け、
同じく皇帝候補のバシエイナスは、タイタスが持っている民衆の心を自分に向けてくれと願う。
タイタスは自分の意見を民衆の意見として欲しいと断り、サターナイナスを推挙する。
サターナイナスはすっかり皇帝気取りで、推挙の礼にラヴィニアを妻にする事を公言。
捕虜タモーラもサターナイナスに献上される。
サターナイナスはタモーラの魅力をたたえる。
バシエイナス、ラヴィニアと婚約していたのは自分だと宣言。マーカスやタイタスの息子ルーシアスらはラヴィニアを連れ去る。
タイタスが彼らと追おうとするのを止めた息子のミューシアスは、怒るタイタスに殺される。
サターナイナスは、タイタス一族が自分をバカにしていると捉え、
ラヴィニアとの結婚を拒否、タモーラを后に迎えタイタスを罵り、去る。
悲嘆に暮れるタイタスの元に、マーカス、ルーシアスらが戻ってきて、
タイタスが殺したミューシアスの埋葬を願う。
拒否するタイタスだが、説得に折れ、どうなりと好きにしろと言う。
息子たち去り、マーカスとタイタス。
なぜタモーラがローマ皇后に、と問うマーカス。
タイタス、分からん、が、そうなったことだけは分かる。
ここに連れてきてやったもののお陰ではないか、と。
サターナイナスとタモーラたち、
バシエイナスとラヴィニア、マーカスら現れる。
サターナイナスは激しく一同を罵るが、
タモーラに諌められる。
今は寛容さを見せろ、後で奴等を皆殺しにする、
王女たるものに町中で膝をつかせ、息子の命乞いをさせ、それを退けた罪を思い知らせてやる、と。
サターナイナスは完全にタモーラに骨抜きにされている。
場はタモーラが丸く治めた形になり、タイタスも感激、サターナイナスを明日、狩りに誘う。
第二幕
第一場 宮殿の前
タモーラの情夫、ムーア人のエアロンの独白。
いまや高みにいるタモーラに便乗して、同じ眺めを味わってやろうと決意表明。
そこへタモーラの息子たち、カイロンとディミートリアスやってきて喧嘩を始める。
どちらがタイタスの娘ラヴィニアをものにするか、であわや決闘に。
エアロンは仲裁に入り、
やれば済む情欲ならやってしまえ、明日の狩り、大自然の中で思う存分レイプすればよい、
タモーラに計画を整えてもらおう、と二人をそそのかす。
乗り気な男二人。
第二場 ローマ近郊の森
タイタス、角笛を鳴らし狩りへ向かうサターナイナスらを起こす。
カイロンとディミートリアスは、胸にラヴィニア狩りの欲を秘めている。
第三場 森の中
エアロンは後の企みのためと、金貨を土中に埋める。
そこへタモーラ。
エアロンはタモーラに復讐計画を告げる。
そして皇帝へ渡すようにと密書を預ける。
タモーラはエアロンといちゃここうとするが、
エアロンはバシエイナスにケンカを売るように言い含め去る。
同時にバシエイナスとラヴィニア現れ、
エアロンと二人でいたタモーラに対しいやみ。
そこへカイロンとディミートリアス。
タモーラは二人に、「殺されそうになった、復讐を」と告げると、
カイロンとディミートリアスはバシエイナスを刺し殺す。
ラヴィニアは立ち向かおうとするが、
カイロンとディミートリアスのレイプ計画を聞き、
タモーラに、自分を今すぐ殺すように頼む。
がタモーラは、自分の息子の命乞いを踏みにじられたことを復讐の原動力とし、
息子たちに、ラヴィニアをレイプした上殺すように命ずる。連れ去られるラヴィニア。
エアロン、タイタスの二人の息子を連れてきて、
バシエイナスの死体を隠してある穴に放り込む。
自分はサターナイナスを呼びに行き、
バシエイナス殺しをなすりつけるつもり。
エアロンに呼ばれてサターナイナス、アンドロニカス、タモーラがやってくる。
タモーラは先ほどの手紙をサターナイナスに渡す。
そこにはバシエイナス暗殺計画と報酬の在処(さっきエアロンが埋めた金貨の場所)が記されていて、
容疑はタイタスの二人の息子にかけられる。
二人の命乞いをするタイタス。
皇帝は聞く耳持たず。
タモーラが仲介してあげると言葉をかける。
第四場 森の別の場所
犯され、舌を切られ、両腕を切断されさまようラヴィニアを、
タイタスの弟のマーカスが発見・保護。
第三幕
第一場 ローマ市街
息子二人を許すように護民官に嘆願するタイタス。
誰も耳を貸さず通り過ぎていく。
息子のルーシアスは、クインタスとマーシアスの二人を救おうとし、ローマを追放となる。
悲嘆に暮れる二人のもとに、
ラヴィニアを連れたマーカス。
心が砕けそうになる。
そこへエアロン。
一族の誰かが片手を切り落とし献上すれば、
息子二人の罪は許されるという事を伝えに来る。
ルーシアス、マーカス、タイタス、誰の腕を切るかで立候補しあう。
タイタスは二人のどちらかに譲るとその場を去らせ、
その隙に自分の左腕を切り落とす。
エアロンは手を受け取り去っていく。全て彼の狂言なのだ。
やがて使者が、息子二人の首とタイタスの手を持って帰ってくる。
タイタス笑い出す。
「なぜ笑う?こんなときに場違いです。」
「なぜだと?流す涙はもう一滴もないからだ。」
そして不正を正し復讐を行うと誓い、
ルーシアスにはゴートで兵を集めるように告げ、去る。
ルーシアスも復讐を胸に、ローマを去る。
第二場 タイタスの邸、会食の場
ハエを殺したマーカスに怒り狂うタイタス。
そのハエの父母が嘆く!と。
次いで、ハエがエアロンそっくりだったので殺した、と言われると、
狂ったようにハエをぶち殺す。
発狂寸前。
第四幕
第一場 タイタスの邸の庭
ルーシアスの息子のルーシアス(ややこしい)を追いかけるラヴィニア。
ラヴィニアはルーシアスの持っていた本をしきりにめくり、何かを訴えようとする。
マーカスは、砂に棒で文字を書くことを思いつき、
ラヴィニアに強姦の犯人の名を書かせる。
砂に記される、タモーラの二人の息子の名。
タイタスは復讐を誓う。
ルーシアスをタモーラの邸に使いに出し、何かをする様子。
こうして、復讐の連鎖は動き出す。
第二場 宮殿の一室
ルーシアスはカイロンとディミートリアスのもとに、武器と詩を届ける。
二人は喜ぶが、エアロンは悪事を見破る。
だがこれを放置。
そこへ乳母が、タモーラに子供が産まれた、どうしようと騒いでやってくる。
子供の肌は黒、エアロンの子だ。
息子たちは騒ぎ立て子供を殺そうとする。
エアロンの、「黒こそ至高」演説。見事なレトリック。
エアロンは乳母を殺し、秘密が漏れることを防ぐ。
産婆も殺すつもり。
そして近所の赤ん坊と取り替え、
ゆくゆくは武将にするつもり。
カイロンとディミートリアスは、
自分の命が助かるならと計画に加担。
第三場 宮殿の家
タイタスたちは、皇帝の宮殿に請願書を届けにくる。矢を放ち喧嘩を売る。言動はもはや錯乱状態。
通りかかった道化が皇帝に手紙だというので、
そいつにナイフをくるんだ請願書を託す。
第四場 宮殿の前
タイタスが神に向けて放った矢(請願書付き)に怒る皇帝。
道化がタイタスの請願書を届けるといよいよ怒り道化を死刑に命ずる。
が、ルーシアスがゴート族を従えてローマに進撃中と聞き動揺。
タモーラはルーシアスに向け、
「ローマ皇帝はタイタスの邸にて和平を願う」という策略の知らせを持たせ放つ。
第五幕
第一場 ローマに近い平原
ゴート人を従えローマに進軍するルーシアス。
道中、兵に捕らえられたエアロンがルーシアスの前に引き出され、エアロンは息子の命を助けるかわりにと、
今までの悪事の全てをばらす。
怒り狂うルーシアス。
サターナイナスからの条件を飲み、
一度タイタスらと合流することに。
第二場
タイタスの邸の前
タモーラたちは、ルーシアスの挙兵を取り止めさせるために、
タイタスの邸に行き、
狂っているのを良いことに自分たちを
復讐の女神・強姦・殺人を裁く神と偽り、
ルーシアスや皇帝たちを集めての宴会を提案。
その提案を飲んだ上でタモーラのみ帰らせ、
狂ってはいなかったタイタスはカイロン、ディミートリアスを取り押さえる。
「貴様らの骨を細かく挽き貴様らの血でこねあげ生地を作る。貴様らの生首をその生地で包み、貴様らの母親に食わせる、それがこの宴会だ」
と人肉パイ計画を説明したのち、二人の喉をかききる。
第三場
タイタス邸の中庭
やってきたルーシアスは、もちろん兵を連れている。
招待されてきたタモーラと皇帝サターナイナスに、
タイタスはコック姿でパイを振る舞う。
強姦された娘は生かしておくべきか、とのタイタスの問いに、
故事に照らせば殺すべきだと答えたサターナイナス。
タイタスはその言葉に習い、ラヴィニアを絞め殺し、
苦痛から解放する。
動揺する一同に、娘が強姦されたことを告げ、
犯人はカイロンとディミートリアス、そのパイになっている、と種明かし。
その勢いでタモーラを刺し殺し、
タイタスはサターナイナスに殺され、
ルーシアスはサターナイナスを殺す。
わずか数ページで死体の山。
マーカスとルーシアスはその場の人々にいきさつを話し、
ルーシアスは皇帝に推挙される。
エアロンは首から下生き埋めの上、餓えにまかせて処刑。
タモーラの死体は野ざらしで朽ちるに任せる、
と処遇が決まりエンド。
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