『グッド・バイ』
著:太宰治
昭和47年 新潮文庫た28

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太宰治の、主に晩年の作を集めた一冊。
戦争、ということをどう捉えていたかの描写が結構ある。
当時の軍部への反感と、
日本という国自体への愛国心とかが、
「間違いを犯している親に、間違っていると突きつけて今さら恥をかかせられない」
みたいな書かれ方をしていて、
政治、という概念と、国、という概念の捉え方など面白い。

作風も様々。
チェーホフの『煙草の害について』を彷彿とさせる『男女同権』とか、
『冬の花火』『春の枯葉』戯曲二本立てなど、ボリュームたっぷり。

しかししかし、
絶筆となった『グッド・バイ』の、
コメディ的キレがものすごい。
愛人を作りまくった男が、愛人たちと縁を切るために編み出した、
「絶世の美女(ただし声が悪い)を妻だと紹介して回る作戦」
の顛末を、是非とも最後まで読みたかった。




【ネタバレあらすじメモ】
リンクは私の朗読動画へ。

『薄明』
甲府疎開時のスケッチ。

『苦悩の年鑑』
思想の遍歴。戦争中の思想描写。

『十五年間』
東京八景の続きの気持ち。サロンくそくらえ。

『たずねびと』
あの時の乞食は、私です。
雑誌に投稿された、戦争の際に自分を救った恩人に対するメッセージ。
投稿された文章の形で進むのが面白い。

『男女同権』
新憲法が発布され、男女同権が認められた。
田舎町で男女同権について語るよう求められた詩人は、自身が散々女性にいじめられてきた経験を語る。
チェーホフ『タバコの害について』のオマージュ。ですよね?

『冬の花火』
津軽に疎開してきた女と、父、継母、女を思う男の人間模様。継母との関係が『斜陽』っぽい。

『春の枯葉』
青森の金持ちと東京人との確執。
戦後の荒廃した雰囲気。嫉妬。

『メリイクリスマス』
久しぶりに再会した知人女性の娘と、恋の勘違い。

『フォスフォレッセンス』
夢と現実は続いている。

『朝』
夜這いの危機。危険なのはお前だ。

『饗応夫人』
どんな無礼を働かれても誇り高く客をもてなす夫人を、その女中の目から見る。

『美男子と煙草』
先輩文学者にへこまされる太宰。
上野の浮浪者見物に連れていかれる太宰。
妻のマジボケ。

『眉山』
行きつけの飲み屋の、底抜けに明るい無知な女給に、眉山というあだ名をつける。
憎しみに近いものすら感じていたのだが、ふと店からいなくなり…
視点を変えるラストシーン。良い。

『女類』
男と女の違いを得々と語る作家。
居酒屋の女の自殺。

『渡り鳥』
軽薄そうな男が展開する
「パクりでないものはない」という芸術論。
ウンコになってれば問題ない。

『グッド・バイ』
愛人がめっちゃいる男が、愛人たちときっぱり別れるために、カラス声の絶世の美女とコンビを組んで女たちの元を訪れる。
愛人たちは、「この人が妻なら…」と、自然身を引いていく…
という算段の元に始まったグッド・バイの旅。
未完だが、簡潔でカラカラに明るく、楽しい。

あとがきに『グッド・バイ 作者の言葉』あり。