『幸福な王子 ーワイルド童話全集ー』
著:オスカー・ワイルド
訳:西村孝次
昭和43年 新潮文庫
オスカー・ワイルドの書いた童話をひとまとめにした文庫。
タイトルにもなっている『幸福な王子』は、
もうまさに、良い話。
しかし、その他のラインナップが、
童話、というには黒すぎる、大人の童話なものばかりで、ワイルド先生、尖っていらっしゃいます。

三本に一本くらいの割合でいい話が出てきますが、
全体を通して流れるのは、人間の傲慢さだったり、
むくわれなさ、やるせなさ、みたいなものな印象でした。
救いのない、されども美しい世界を楽しみたい方に。
装飾がこれでもかと施してある文体なので、
一文がハチャメチャに長い時があり、
何の話だったか見失う瞬間もあり(笑)
されど、美しい。
美しさ至上主義ですね。
【ネタバレあらすじメモ】
『幸福な王子』
町にある、幸福な王子の像。
生きているときには見えなかったが、町は貧しさに満ちている。
そこへやってきたツバメに、王子は自分の体の価値ある部分を貧しいものに分け与えるよう頼む。
ツバメも王子が好きになり、冬までいてしまい…。
『ナイチンゲールとばらの花』
恋のために赤いバラが欲しい学生。
ナイチンゲールは自分の血でバラを染めるが、学生はフラれる。
バッドエンド童話。
『わがままな大男』
庭に子供がいると春が来る。
庭から子供を追い出していた男はそれに気付き、ある日泣きじゃくる子に親切にしてやる。
「子供こそいちばん美しい花だ」
それから、泣きじゃくる子は姿を見せなかったが、
大男臨終の間際、両手に穴の空いた姿でやってくる。
白い花に包まれて死ぬ大男。ジーザス。
『忠実な友達』
友情を振りかざす川ネズミに語られる教訓談。
小さなハンスと、友情を振りかざして搾取を繰り返す友人ヒューの物語。
ヒューの搾取っぷりがすごい。
「手押し車をあげるんだから〜してくれてもいいだろう」という決まり文句が、ちょっと、宮沢賢治の『ツェねずみ』を彷彿とさせる。
響かない人には何も響かない。
『すばらしいロケット』
自分の事を偉大なロケットだと信じて疑わないロケットが、そのために火もつかなくなり、
誰にも知られず薪がわりにされて果てる。
それでも、評判になったと信じながら消えていく。
『若い王』
即位した王は、式典のために着る贅沢な衣装を楽しみにしていた。
が、夢で、それらの衣装を作るために多くの悲しみと血が流されている事を知り、出来上がった衣装を拒み、みすぼらしい格好で儀式へ。
富める物が贅沢をしないと駄目だ、と民衆や貴族たちは反抗するが、
王が祭壇の前に立った時、天からの光がみすぼらしい衣装に祝福を授け、立派な身なりに変える。
一同、王の元にひれ伏す。
良い話だけども同時に、高潔な志は神にしか見抜けず、人は見かけだけを大事にするような皮肉な話でもある。
素直に良い話!と手を叩きにくい皮肉。
『王女の誕生日』
王女の誕生日に見世物として連れてこられた小人が、王女に恋をする。
その後、王女に一目会おうとうろうろするうちに、
宮殿の鏡の前に出た小人。
自分の醜さに衝撃を受け、王女が自分に優しかったのは実は、醜さを楽しんでいたのだと気付く。
現れた王女に好奇の目で見られ、彼は苦しみの余り、
息絶える。
『漁師とその魂』
漁師は網にかかった人魚に恋をする。
結婚を申し込むと、魂を捨てなければ出来ない、と言われ、漁師は魂を捨てる方法を探す。
教会に行くと、それは恐ろしい事だと一蹴され、
魔女の所に行くと、魔女と踊るように言われる。
神の事を念じると魔女たちは退散する。
漁師は、影と自分を切り離すことで、魂と別れ、
人魚と海の中へ。
魂は別れたくないと漁師に言うが漁師は取り合わず。
一年後、魂は漁師に話す。
どんな知恵も身に付けられる知恵の鏡を手に入れたから一緒に取りに行こうと。
だが漁師は、知恵より愛だと、再び海へ。
二年目、魂は漁師に話す。
富の指輪を見つけた話、そしてそれを隠したから、
一緒に取りに行こうと。
だが漁師は、富より愛だと、またまた海へ帰る。
三年目、魂は、素敵に踊る少女の話をする。
漁師は人魚にそういえば足がない、と思い立ち、
魂と再び融合、町へ向かう。
魂は漁師に、窃盗、暴力、強盗を唆し、
漁師はそれをやってしまう。
魂は、自分が離れるときに心をくれなかったから、
自分は心が痛まなくなったのだ、と告げる。
魂の行動に嫌気がさした男は魂を切り離そうとするが、
魔女の魂切り離しの呪いは一度しか効かぬのであった。
漁師は、魂の誘惑に動かされぬよう、手を縛り、
耳を塞ぎ人魚の元に戻るが人魚は姿を現さない。
魂の強い誘惑をこばみ続けたが、人魚には会えない。
二年たった時、魂が漁師の心臓に戻りたがると漁師は同情し、許可を出す。
だが彼の心臓は恋で固められ入り口がない。
と、海から叫び声が上がり、漁師は人魚の死体を発見する。
悲しみ、心臓が割れ、魂は心臓に入り込む。
波に呑まれる漁師。
死体を見つけた司祭は、誰にも見つからぬ場所に埋めさせる。
そこからは美しい花が咲き、
海の者を邪悪としていた司祭は、考えを改める。
『星の子』
きこりが、空から降ってきた輝く星の子供を拾って育てる。
美しさゆえに傲慢に育ち、弱者を攻撃するようになった星の子は、
ある日女乞食をいじめる。
するとその女は、彼の母だと名乗る。
星の子は母親を醜いと罵り、帰らせる。
星の子が仲間のもとに帰ると、彼の姿形は醜くなっており、
仲間は彼を追放する。
母に辛く当たった罰だ、と、
星の子は母を探す旅に出るが、
自分が今まで世界にした不寛容が全て自分に返ってくる。
奴隷として魔術師に捕まり、
森から白・黄・赤の金貨を持ち帰るように言われる。
助けてやった野うさぎの助けを借りてそれぞれ見つけ出すが、帰り道に病気の者に恵んでしまう。
金貨が見つからなければ殺されてしまうにも関わらず。
魔術師のもとに帰ろうとする星の子に、
皆が敬意を表する。
こんなに美しい人は見たことがない、王だ、と。
星の子の姿は元に戻っていた。
そして群衆の中にいた病気の男と乞食の母は、
この国の王と王妃で、
星の子は王子として迎えられ、やがて王になる。
善政を行った星の子だったが、
それまでの辛い生活がたたって三年で死亡。
後には悪政の王が就任、というキレイに終わらない物語。
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