『カライ博士の臨終 人生の最も厳粛であるべき瞬間に、わたくしがもし笑ひの衝動をおさへることができぬとしたら、いつたいどんな罪に問はれるであらう?』
作:岸田國士
1951年1月

「人間つていふもんは、いつたいなんだ?つまり、解らうとする動物にすぎんのだ」
タイトルが長い。
病床の加来博士が、
己の死期を悟って、縁のあるものそれぞれにしっかりとした別れを告げる。
もはやなにもやり残した事はないと死を迎えようとする加来だが、死の方がなかなかやってこず、
一同もなんだか調子が狂う。
いよいよ臨終の時と集まった面々だが、相変わらず憎まれ口を叩く加来に、一同苦笑ったりするわけだが…
と、立派に死の床に着こうとした人間が次第次第に調子が狂ってくる感じの戯曲。
「あの世に身軽に行きたい」と、今までの引っ掛かりを残らず言葉にしていく加来、特に兄との関係の場は面白い。
とても長い副題
「人生の最も厳粛であるべき瞬間に、わたくしがもし笑ひの衝動をおさへることができぬとしたら、いつたいどんな罪に問はれるであらう?」
に関しては、
ちょいとよく分からない。
最終場で人物らは、
「苦笑い」を浮かべたり、
「ニヤリと笑っ」たりするのだが、
その笑いの真意が
「この人死ななそうだわ(笑)」
なのか
「困った患者だもう死ぬのに…」
なのか
はたまた他の何かなのか、捉えどころがない感じ。
臨終の場に至るまでに結構な時間が経っている、
というのが「笑い」のヒントになりそうではあるのだが、
「お葬式なのに面白いハプニングが起きて、どうしても笑いを堪えきれない」
といった種類の分かりやすい「笑い」とは、
趣が異なるものな気がする。
【収録】
『岸田國士全集7』1992年 岩波書店
『岸田國士全集(上)318作品⇒1冊』岸田國士全集出版委員会
【ネタバレあらすじメモ】
一
哲学博士・加来典重はとても体調が悪い。
同僚の早見に診療してもらった所、
妻の冬菜に「もって三日」との見立てが言い渡される。
妻はなんとか自分から切り出そうとするが、
「全く望みがないわけではない」などと言ってしまう。
加来は眠りにつく。
冬菜は息子・四紋、娘・ネラ子、加来の兄・雅重にも連絡。
駆けつけた来た四紋とともに、近しい人を呼び集める。
二
病室で加来は、妻に「自分が長くないことは気づいている」と告げる。そして、息子娘を呼び出す。
遺言に近い、落ち着いた物腰で話す加来。
続いて、兄を始めとした見舞い客を病室に招く。
そして、それぞれに丁寧な感謝と別れと言葉を述べる。
三
病室。
主治医の煙が診察している所に早見がやってくる。
加来は「君の口から直接ダメだと言ってくれ」と告げるが、それは戸惑う早見。
「自分の感覚が消滅する瞬間に出会えるのが楽しみだ」という加来。
早見は煙に何事をか伝え、出ていく。
四
見舞いの一同。
危篤が二日続いているが、最期まで側にいたいという気持ちを話し合う。
弟子の細田が病室に呼ばれる。
一同のもとに、雑誌の記者・津丸。
「先生の思い出」を書いてくれませんかとの依頼を、
「まだ生きているからそんなものは書けない!」と断る大里。
細田が病室から出てくる。
彼いわく、先生の意識は冴え渡ってきている。
続いて大里が病室に呼ばれる。
細田に記事を書かせようとする津丸。
やがて大里出てくる。
細田が加来に抱いた「冷静」という印象とは逆に、
大里は加来が錯乱状態にあるのでは、と。
加来は、大里の事を煙たく思い、死を願った事もあると告白したという。
次は縁故のある出版社の浦が呼ばれる。
加来はそれぞれに、大切な告白をしているようだ。
五
兄の雅重と話す加来。
実は、ずっと妻を奪われるのではないかと嫉妬していたのだ、と告白。
続いて、妻の冬菜と二人きりでの会話。
冬菜はきっと治ると言い続け、加来はもう死ぬ、の繰り返し。
六
加来臨終の場。
言う言葉が支離滅裂になっている。
臨終と告げられた後に、加来はひときわ大きな声をあげ、そして息絶える。
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