『山吹』
作:泉鏡花
大正12年6月

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【一度は口に出したい名台詞】
「身ぶり素ぶりに出さないのが、
真個の我が身体で、
口に出して言えないのが、真実の心ですわ。
唯恥かしいのが恋ですよ。」

【感想】
画家と夫人と人形使い、というのが主に出てくる人。

嫁いだ先のあまりの仕打ちに家を飛び出し、
社会に居場所がなくなった夫人が、
温泉地にて憧れの画家に再会し想いを告げるが…。

という話。

画家と夫人の間に、
罰を望む人形使い、という人物が入り込むことで、ただの恋物語とも違う異様さが醸し出されてる。

画家か、人形使いか、
あっちか、こっちか、
現世か、あの世か、
というような選択の末に辿り着くラストシーンは、
醜い者×圧倒的な美の、
死の道行っぽいビジュアルがあり、
そのビジュアルが、やっぱり大層美しい。
この一枚の絵のための芝居、
という感じの作品。

煮え切らないな、画家め。
「僕には仕事が」という、優柔不断なヒーローだ。

【収録】
『海神別荘 他二篇』作:泉鏡花/1994年 岩波文庫

海神別荘・他二篇 (岩波文庫)

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【ネタバレあらすじメモ】
第一場
修善寺温泉の裏道にて、
飲んだくれる人形使い。
この地に夫人はやってきた、何かから隠れるように。
そして、逗留する画家の女房になりすましたいと画家に告げるもつれない返事。
人形使いを見て夫人は、
「私の願いは何も叶わなかったから、あなたの願いを叶えてあげよう。」
人形使いに誘われて、
夫人は木立に入る。


第二場
丘の上。
夫人は人形使いを激しく折檻する夫人を、
画家が止めに入る。
聞けば、人形使いの望みだという。
昔美人を手にかけたことがあり、どうしてもその罰を受けたく、折檻を望んだという。

夫人はも一度、画家に言い寄る。
自分の正体は以前会ったことのある、
小糸川子爵夫人であること、
一目会った時から画家に惚れていたこと、
結婚させられた先の夫と家族は自分の財産目当ての人非人であること。
もはや社会に居場所がないので、
自分はこの人形使いと共に姿を消すつもりであること、
それを救うには今、あなたが私の手を取るしかないこと
を打ち明ける。
画家も心を動かされるが、
「自分には仕事がある」として断る。

人形使いと共に旅立つ夫人の後ろ姿を見て、
今一度呼び止めようかと瞬間迷うも、
仕事を思い出し断ち切る画家。