文学座有志によるスペイン戯曲研究会
『燃ゆる暗闇にて』
作:アントニオ・ブエロ・バリェホ
訳:佐竹謙一
演出:西本由香
日程:2016年6月16〜19日
料金:3000円
会場:文学座新モリヤビル1階

久しぶりに文学座で芝居観た。
なんてアグレッシブな戯曲上演してるんだろう。
もう、とにかく本の面白さが半端なかった。

価値観の逆転というか、
善悪の反転というか、
革命の伝染というか、とにもかくにも面白い。
タブーを打ち壊す、というか、ガラスの動物園を破壊しまくるような感覚。
黒い衣裳に身を固めたイグナシオはさながらハムレット。
周りが狂っているのか、自分が狂っているのか?
おもろい。
一般的な幸せ、というものが、何かに目を瞑って、
何かを見ないようにして、何かの真実に触れないようにして維持している物だとしたら、
そこに真実を持ち込むのは善か悪か。
そういう点ではイプセン的でもあるなぁ、と思いました。
平和な日常の中に侵入してくる破壊者。
作中イグナシオも「戦争を起こしにきた」と言ってますが、
その行動は善とも悪とも言い難い、
「見る」という事への欲望と探求心。

「見る」という事がタブー視されている盲学校を舞台に、
登場人物の8割が盲目という中、
語られるのは物理的な見える見えないではなく、
真実を見通す力、のように思われました。
その力を持つイグナシオが、人に与える影響。
それは危険な扇動者か、それとも革命の英雄か。
一度真実へと向かい始めた火は、決して鎮火する事はないのでしょう。

盲学校を舞台にして、
「目を開け、真実は何だ、しっかり見ろ」
そう我々に問いかけるようなお芝居でありました。
すごい戯曲。

俳優陣も、安心の文学座クオリティ。
革命者イグナシオ(越塚学)に、もう少し、身にまとう孤独感、みたいな物が、
また、カルロス(神野崇)に、もう少し脆さ、みたいな物があったら、もっともっと何かが際立ったかしら。

劇中のあのびっくりタイムは、戯曲の指示かしら…
演出だとしたら、少し、演出家の「やってやろう魂」が強く出すぎてたような印象が無いでもない。
面白かったし、好きですけど、
「ならいっそ初めから数分この状態だったら超面白い」
とか思ったりしました。
もっさん、好き勝手言ってごめんなさい。
とても刺激的で面白い舞台でした。こういうのもっと観たいです。
もっと増えてほしい。
あー、こんなヒリヒリした芝居したいなー。


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【備忘あらすじメモ】
これから観る人は読まない方がいいです。
後で僕が感動を反芻する為だけに書いているので、大事な部分がバレます。



































舞台は盲学校。
そこでは、明るく楽しく、「見えない」という事は、「見える」事になんら劣ることはない。
という教育方針が取られ、生徒たちが杖なしで行き来する学校。
そこに、一人の転入生・イグナシオがやってくる。
校風に馴染めないイグナシオ。
なんせ彼は、「見えない」をマイナスと捉えない校風がまるで肌に合わない。

「見えない」事はどういう事か、そこから目をそらしては本当の盲目になる。
そう考える彼は、周りの生徒たちに論争をふっかける。
次第にイグナシオ派が多数になり、
校内の規律は乱れる。
かつての校風を守る生徒の代表カルロスもまた、イグナシオに論破され、
校内の空気はイグナシオ一色に傾いていく。

しかし、強がるイグナシオも、孤独感を抱えていた。
自分が弱いゆえに噛みついてしまう恐怖を、誰も理解しない。
馬鹿どもは追従を並べ立てる。
そこに、ホアナ(カルロスの彼女)が理解を示す。
イグナシオは彼女こそが自分の理解者だと、カルロスから奪いにかかる。

校内の流れに危機感を感じた校長ドン・パブロ(中村彰男)
(このドン・パブロが、弱い人間代表みたいでとても良かった。
彰男さんの発声は独特な魅力がある。どんな低い音でも、一度上に上がってから低く落ちていくような。
どこかで聴き覚えがあると思ったら、研究所同期の原口に似ている。
彼は彰男さんにめっちゃ憧れてるから、真似てるのか、あるいは、この声の出し方は、
狂言にルーツがあるか、どちらかだろう。今度原口に聞いてみよう。)
は、保守派の筆頭カルロスに、
「イグナシオに、学校を出ていくように君から伝えてくれないか」
と懇願する。

カルロスは、ホアナの気持ちの変化に気づいている。
イグナシオに舌戦を仕掛け、
彼が、見えないという事はどういうことか、今この夜空に沢山の星が輝いているという事だ、
と語る様に少なからぬ共感と、見ることへの欲望を感じる。
が、話がホアナに及ぶに至ってカルロスはかちんとくる。
あわやカルロスの拳がイグナシオを捉える瞬間、
パブロの妻・ドニャ・ペピータ(この人は施設で唯一目が見える)が割って入る。
外を散歩してくるというイグナシオ。
ペピータは再び、カルロスに、パブロの意志を伝える。
外を散歩してくるというカルロス。
ペピータが胸騒ぎを感じ窓から外を覗くと、
そこにはイグナシオを高所から落とすカルロスの姿があった。

運ばれてくるイグナシオ。
人が集まる。イグナシオは息絶えていた。
カルロスは、自分が見つけた時にはもう死んでいた、と状況報告をする。
「なんでこんなことに」
うろたえるパブロ。
うろたえるイグナシオ派の生徒たち。
口を開かないペピータ。
生徒たちは、イグナシオに啓蒙されたかに見えた生徒たちは、
イグナシオの死を悲しむものの、普段の生活に戻ろうとしていく。
ホアナもまた、カルロスの胸に戻る。
ペピータはカルロスに「二人で話を」と持ち掛ける。
仮に、あなたが彼を突き落としたとしたら。
認めないカルロス。
「あなたたちは人の視線を忘れている」
もしかしたら私が見ていたかもしれない。
打ち明けた方が良いこともある。
それでもペピータを拒むカルロス。
あなたには見えっこない。
それは、物理的にではなく、精神的なことのように思われる。
イグナシオに心酔していたものたちが、
次々とことなかれ主義、「平和な」日常に戻っていく中、
イグナシオを殺したカルロスの胸にだけは、
イグナシオの言葉がはっきりと刻まれていた。