『連鎖街のひとびと』
作:井上ひさし
初演:2000年6月

新劇の作家・満州のシェイクスピアこと塩見と、
大衆演劇の作家・満州のモリエールこと片倉。
二人は満州は大連市のホテルの地下室に缶詰めにされている。
時は1945年8月末。

厳しい時代と、
厳しい状況(明日までに台本を書かないとシベリア送り)に立たされた作家たち。
色々ぼろぼろな人たちが、
舞台作りによって再生していく様が面白い。

これもキャラたってるなー。
すごい面白い。
戦後の動乱の中で、演劇を背骨に生きていく、
人間の生き様。
素敵な戯曲。



塩見と片倉はある台本を完成させるために缶詰めにされている。
ほてるのオーナー今西が安請け合いしてしまった、
ソ連のイベントで上演するための本だ。
しかし、出演する役者も手元におらず、
作劇は難航する。
今西は「台本が出来なかったら皆シベリア送り」
という恐ろしい言葉を残し、
ホテルマンの陳には作劇を手伝うよう言いつけ、
自分は、唯一出演の可能性がありそうな女優、
ハルビン・ジェニィにかかっているスパイ疑惑を晴らすため交渉の場に向かう。


陳の活躍でタイトルが出来上がる。
そこへ今西、ハルビン・ジェニィの出演が決まったと吉報を持ってくる。
そして、一彦という作曲家(ジェニィの恋人にして塩見の息子的存在)も協力してくれる、と。
やってくる一彦。
作家陣は、今西と一彦に、本が未完成な事を悟られまいと奮戦。
その過程で、
彼らは満州の文化担当官・市川新太郎に痛い目に合わされていた事が語られる。
なにしろ、女癖が悪いという市川。
すると、部屋の入り口付近、
ジェニィに迫る市川が現れ、
一彦はそれを目撃してしまう。


ジェニィと市川のやり取りを立ち聞きしてしまった一同。
陳は二人を引き離し、別々の場所で休ませたという。
一彦はショックのあまり、壁を見つめながらただただ泣いている。
作家たちは、この「立ち聞き」から
いかにドラマが発生するかを語り合い、
作劇を進める。
またも陳のいい加減な発言から、
光るアイデアを得た二人。
そのアイデア
「ウソをかくす大ウソ」とは一体…。


翌朝。
作家たちは必死で台本を完成させていた。
ジェニィに話をする三人。
昨日の市川とのやり取りを、一彦くんは聞いてしまい深く傷ついた。
もはやいかなる釈明も効果がない。
市川も途中から入ってくる。
彼は満州の文化担当官として、
ソ連から追われる身だった。
一彦に潔白を示す方法がないならば死ぬまで、
とジェニィが青酸カリを手にしたとき、
三人の作者は言う。
「一つだけ方法がある」
それは、昨日の市川とジェニィのいちゃいちゃは、
芝居の稽古だったと一彦に信じさせること。
ジェニィは進んで、
市川は「ソ連に突き出されるよりは我々の話に乗った方が…」
と半ば脅され、
この大勝負に挑むことになるのであった。


稽古が始まる。
ロシア人の長い名前に弱音を吐く市川だが、
だんだん調子が出てくる。
一彦はジェニィと市川の出来事が芝居の稽古だったと知り、
やる気を出す。全編オペラ化が決まる!


稽古は勢いを増している。
そこへ今西。
日本は、大連に残る日本人の引き揚げに消極的
出し物は違う団体がやることに決まった
という二つの知らせ。
いきり立つ一同。
塩見・片倉は、一瞬、
ウソを隠す大ウソの話。
一彦、それについて疑いを抱く。
そんなことは関係なく、
市川は芝居に「高田馬場」を盛り込んではどうかと提案。
面白くなってみんなやってみる。
一彦は気付く。が、それも大うそ、
実は皆の思いやりには途中から気付いていた、と。
丸くおさまってまた「高田馬場」
売る物はないと嘆く今西に、陳は告げる。
ここにあるじゃありませんか、売り物なら。
一同は、楽しそうに稽古を続ける。

「ある青年の成長物語。あるいは、ある俳優の再生物語。さもなければ、ある実業家の文化事業への進出物語!」
おしまい。