劇団だるめしあん
『10978日目の鏡』
作:黒川陽子&坂本鈴
演出:坂本鈴
日程:東京→2016年2月5〜14日/熊本→2016年3月5・6日
料金:前売2700円/当日3000円/金曜日は花金割2200円/高校生1000円/学生2000円
会場:東京→toiroan 十色庵/熊本→リトルスターホール

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劇団だるめしあんの坂本鈴と、劇団劇作家の黒川陽子が書き上げた、
5つのエピソードから成る短編集。
「あぁ、面白かった!」で終わらない、ずしりと重い、けれども観る人を元気づける作品でした。

割とネタばれしつつ感想書きます。から、知りたくない人はご注意。

5つのカラーでいうと、重→軽→軽→重→重
という感覚でしょうか。

episode1『ベッドにて』作:黒川陽子
episode2『1DKの冒険』作:坂本鈴
episode3『脳内女子会』作:坂本鈴
episode4『手のひらマクベス』作:黒川陽子
episode5『10978日目の鏡』作:黒川陽子

という構成で、30歳を迎えた一人の女の一日を綴る。
↑ひとりの女の、というのが割とミソなのだけど、ちょっと伝わりづらいから、
ネタバレだけどあえて書きました。
10978日目、というのは、生まれてからの経過日数。
誕生から10978日目の一日、が舞台上に展開される訳です。

個人的には2・4・5がグッとくる内容でした。
1がも少しライトに観られると、序盤の勢いがつくのかなぁ、なんて。
男・女の二人芝居なんですけど、変な言い方すると、もっといい加減で良いのかなぁ、と思ったり。
初日だからでしょうか、グッと力が入っているイメージ。

2は、ホボホボのライブラリミーティングで観たもの。
ホボホボの時よりも、ぐっと完成度が上がっていたように思います。
モンスターたちが、何かをふっ切った動きをしていました。
これは、軽快なテンポからいつの間にやら深刻な所に連れて行かれる、坂本ワールド。
1の翌朝、というのが若干の分かりづらさだけど、それはまぁ、後々分かればいい話か。
時間堂の菅野貴夫さんが、魔王です。
切ない顔してたなぁ、魔王。
いつか倒されるのを待つ、魔王。切ないなぁ。
魔物とか勇者とかモンスターとか出てくるのだけど、
型式にならず、心が通ってる感じで良いバランスでした。

そして、3。
休日に昼間から、ひとりエッチに時間を使う女が、自分を省み、正当化し、葛藤し、
という脳内で繰り広げられる女子会。
こちらも、迷って迷って迷って、先に進んだのかなんなのかよく分からない、
という坂本ワールド。
突如声がでかい、という事の面白さを教えてくれます。
坂本鈴の2本は、すごく感情的・感覚的な作品。
わー、ぎゃー、うおー!!
みたいな。
黒川陽子の「これがこうして、こうです」的な理知的な作風とは反対方向に突っ走ってるような。
こうして違う劇作家の作品が5本並ぶと、作風って、ここまで違う物なのだな、と、
今更ながら思います。

4の『手のひらマクベス』、これは戯曲がとにかく見事。
あのシェイクスピアの『マクベス』の、アラサー女子版。
マクベスの色んな台詞・場面を、見事にパロって、女の儚い願望を打ち砕く。
『マクベス』好きにはたまらん内容でしょう。
バンクォーそっくりの亡霊が行進する場面なんか、よくここをこう持ってきたな、って感じ。
僕は『マクベス』好きなのでそりゃたまらん内容でしたが、
『マクベス』知らないと面白さが半減するのも事実、と言えば事実でしょう。
観る前に、読んでから行こう『マクベス』を。

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劇中によく、『マクベス』の台詞をパロった独白が出てくるんですけど、
ここの演出方法、が若干引っかかる。
独白が始まると、仰々しい音楽が流れて、演技の演劇臭さが何段か上がる。
いわゆるシェイクスピア劇の典型的イメージの一つ
「おおげさ・喋り過ぎ」みたいな所を抽出してるんだと思うんだけど、
そしてまぁ、その通りだとは思うんだけども、
独白でもっと色々繊細な部分が観たかったなぁ、と思う次第。
「シェイクスピアっぽさ」で笑いの色に染めるよりは、
「あんだけ喋るってことはそんだけ感情が嵐のように渦巻いてる」
というのを、もっと観たいなぁ、と。
これも単に僕がシェイクスピア好きだから、の感想なのだけど。
脚本は、愛あるがゆえのシェイクスピアディスり、みたいな事が多いように思うので、
演技・演出も、もっとシェイクスピア愛が溢れて来ると、よりおもろいのではないかと。

で、ラストの5番目。
これが、もう、とにかく良かった。
これまでのエピソードが、見事に一か所に、集まっている。
ここで初めて、
あぁ、この短編集は、すごくミニマムな『わが町』だったのだなと気づく。

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劇中の空間とは明らかに違う次元に存在する語り手が登場して(『わが町』でいう舞台監督)、
彼女の時間の外側から、時に内側から、
優しく厳しく、現実と時間の重みを突き付けていく。
手に出来なかった物、叶えられなかった想い、過去への後悔。
全ての人が、なにかしら思い当たる節がある想いに触れ、
生きる、という事を見つめ直させてくれます。
押しつぶされそうな挫折の群れ、今日一日に価値はなかった、
そう不貞寝する女が、立ち上がる様に、勇気をもらうのでした。
人生思い通りにいかない事が多いけど、それでも前に進んでゆく。
これは、人間讃歌ですね。清々しい。
語り手が、結構鬼気迫る感じだったのが、効果的な所もあり、もったいない所もあり。
厳しさ・優しさ、両方で女に、客席に寄り添っていくと、
泣く人出るんじゃなかろうか。

この作品、最後にふさわしく、実においしい所を持って行ったな、と思います。
よくこの着地点に辿り着いたなぁ、と。
これは、幸せな演劇でした。

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終演後、皆様に交じって記念撮影。
昨日が初日、東京では14日までやってます。
これからどんどん良くなると思うし、
席も余裕があるようなので、お時間ある方は是非。
心が洗われるような気がします。
日々に疲れてる方はなおさら。

あと、アンディ本山の前説が観たい本山ファンも是非。

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