『時間について』(ラジオドラマ)
作:森本薫
1941年1月25日 放送

『女の一生』の森本薫のラジオドラマ。
この時代にして、すでに
「エレベーター閉じ込められ劇」
があったことに驚く。
このジャンルを切り開いたのは誰なのだろう。

エレベーターに閉じ込められたら怖いな…
という発想は誰でも持つだろうが、
そこに閉じ込められた人々が
「まるで時間というものにのけ者にされているみたいだ」
という感覚は、なかなかにないのではなかろうか。
また、立場の違う人たちの中で流れる
「時間」感覚の違いが、ハッキリ現れるのが面白い。

おしっこ我慢してるときの一分が異様に長いのに、遊んでるときの一分は瞬間。
人それぞれの時間を、エレベーターで一つの時間に無理矢理パッキングするとどうなるのか。


社長・探偵・老婆・エレベーターガール

このバラエティに富んだ顔ぶれの4人が、
エレベーターの中に取り残される。

それぞれが今エレベーターに乗っていた理由など語り、
その人にまつわるエピソードが、
ラジオドラマならではの素早い場面転換で行われる。

なかなかに皮肉なラストもまた面白い。
時間の流れ方は人それぞれ。


『NHK放送劇選集 第二巻』
昭和31年 日本放送出版協会

NHK放送劇選集〈第1-2巻〉 (1957年)

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:ネタバレあらすじメモ:
とあるビルのエレベーター。
乗り込んでいるのはエレベーターガール、社長、探偵、老婆の4人。
社長は下に、探偵は上に、急ぎの用事があるが、エレベーターが故障で止まってしまう。

修理に要する時間は20分ほど。

4人は、ここに乗り合わせたのも運命と、
それぞれの身の上を話し始める。

社長は取引を成功させるため、一刻も早く下に行かなければならない。
探偵は重要情報を掴むため、定刻に屋上に行かなければならない。
エレベーターガールは上がったり降りたりだけの単調な仕事にうんざりしている。
老婆は家に居場所がなく、散歩に出てきた。

急ぐ二人と、急がない二人。

「まるで時間の流れにのけ者にされているみたいだ」
社長は言う。
世間の時間から切り離された時間の中で過ごす4人。

一方地上では。

社長の緊急案件には既に良い結果で片がついており、
探偵の重要情報はタダのデマだったことが語られる。
老婆の家族は老婆を探し回り、
エレベーターガールに一言想いを告げようと一人の男がエレベーターの前に立っている。
彼はじきにこの地を去らねばならず、
近くにいた子供に「おじさんがよろしく」という伝言を預け立ち去る。

急いでいる二人はその場にいないことで良い結果を得、
急がない二人はそれぞれ人を動かしていた。

やがて修理は終わり、探偵は屋上へ、
社長はビルの外へ駆けだしていく。

老婆は家に帰り、
エレベーターガールはまた仕事に戻るのであった。