『グリーン・ルーム』
作品:高橋いさを
初演:1995年12月

上演中の劇場の楽屋(グリーン・ルーム)
カーテンコール待ちの女優三人が、
自分たちだけで舞台をやろうと思い立ち、
現実と向き合いながら友情を育む様を描く短編。

タイトルからそうだが、清水邦夫の『楽屋』のオマージュ。
30分程の短編なので、人物の背負っている業のようなものはどちらかというとライト。
女性を描くのがヘタクソな作演出の劇団で、
いつも似たような役ばかりやっている女優三人が、
自分たちだけで何か芝居やろうよ、と楽屋で盛り上がる。

その際に候補に上がるのが、清水邦夫作『楽屋』である。

女優は三人。
1は過去に傷を持ち、
2は年齢高め、
3は若め。

三人で芝居をやろうと盛り上がり始めるあたりから、1が元気なくなっていくのは非常に分かりやすく
「この人は何か抱えている」
という心理的重量感。

作者があとがきで、
研究生とかの稽古用に、ボリューム的にも便利かと思って戯曲集に入れた
みたいな事を書いてるが、
確かに基礎的な事を学ぶのに良さそうである。
一人、ずっと煎餅喰いながら喋ってるのも面白い。
筋も分かりやすい。
ここから始めて、清水邦夫の『楽屋』まで辿り着く、なんてのも面白いプログラムかもしれない。



私がとある中学校演劇部に、
コーチ
という形でお邪魔していた時、
「面白い台本ないですか?」
と言われて、「これ読んでみ。」とこの戯曲を紹介した事がある。
部員は全員女子で、人数が少ない。
から勉強になるかしら?と思ったんである。
いきなり清水邦夫とか渡されても…だろうから、
入門的にはちょうどいいかしら、と。

で、彼女たちは、地区大会で上演してみる事にしたんである。
「エッチなビデオ」なんていう台詞が、どうしても恥ずかしくて言えないので
「深夜のお笑い番組」的なニュアンスの物に変えたい、
(昔の女優仲間が、今はエッチなビデオに出てる、みたいな流れ)
みたいな事もあって、
当時20代半ばだった私は「なるほど、中学生女子はこういう言葉が恥ずかしいのか」なんて思ったりしたもんである。

彼女らは彼女らなりに台本を楽しみ、
大会に望んだ。

で、講評で言われたんである。
「もっと身の丈にあった、中学生らしい芝居をしなさい」と。
「中学生を演じなさい」と。

これを聞いて私は思った。
「え?そこ?」と。
じゃあじゃあじゃあ、『ヴェニスの商人』とかやってる学校はどうなのよ?
確かに、演劇始めたての中学生たちに、
「楽屋でくすぶる女優たちの話」
を紹介した私も私でしょうけどもね、
(この点、いまだに反省している)
「中学生なんだから明るく元気に中学生のお芝居をしなさい」
ってのもどうかと思ったわけですよ。
身の丈に合った物ばっか喰ってたらですよ、
容量広がらんでしょうよ、と。
自分のキャパシティを広げていく一つのチャレンジをね、
挑んでみた彼女ら部員たちにね、
もう少しかける言葉はあったんちゃう?
中学生は明るく元気に、適度な友情で味付けた芝居だけやってればええの?

落ち込む部員たちに声かけたわけです。
チャレンジしたことは無駄じゃねーぞと。
偉大な挑戦だったぞと。




そんな思い出のつまった戯曲です。
高橋いさを『グリーン・ルーム』

人はね、挑み続けてこそ成長するんだと思いますよ。


:収録:
『八月のシャハラザード』著:高橋いさを
1996年 論創社


八月のシャハラザード

新品価格
¥1,944から
(2015/6/8 14:55時点)





:備忘用あらすじネタバレ:
起:演出家に不満の女子楽屋。
承:女優だけで芝居をやろうと盛り上がる。
転:女優1、昔もこんな話をしたことがあると、女優を辞めた二人の友人を思い出す。
結:二人は女優1を励まし、三人はカーテンコールに向かう。