『強情灸』

世の中にはどうしようもなく負けず嫌いな人がいる。

そんな負けず嫌いが変な意地と見栄をはって、無理難題に挑戦しながら我慢する姿が面白い。

「いやぁ、俺、噂のお灸をすえてきちゃったよ」
「なんだよ、そんなに熱いのか」
「熱いなんてもんじゃないんだよこれが。
しかしさすが俺、一つでも熱いのを32個一辺に乗せたんだから!
もう背中で焚火たいてるみたいでね、
見てる人も
あぁ、なんて我慢強いんだ、おそれいるね
とか
あんな我慢強い男を旦那にしたいよ
なんて言ってね、へへへ…」
「黙って聞いてりゃよぉ、おめえ一人が灸すえるんじゃねぇんだよ
こんなものはなぁ
こうやって掴んで
全部乗せて
こうだよ」
「おい、火事みたいだよ」
「熱…くねぇ
石川五衛門に比べりゃなぁ…
八百屋お七に比べりゃなぁ…
く…い…」
「なんでぇ?」
「石川五衛門も熱かっただろうな」

・収録・
『志ん生滑稽ばなし 志ん生の噺1』/古今亭志ん生著/2005年 筑摩書房 ちくま文庫