『カーディフさして東へ』
作 ユージーン・オニール
初演 1916年

オニールと組んだプロヴィンスタウン劇団が始めて上演したオニールの作品。
オニールの海洋劇の初期作品。
霧に包まれた船と、命の灯が消えかけている水夫ヤンクの存在が重なって見える。
ヤンクが死を悟り、過去の航海を振り返る場面などは生々しく描かれている。
ヤンクは死の間際に言う。
「この船出は辛えや。たった一人じゃなァ!」
一人の人間が、まさに生の海の航海を終え、新しい航海に乗り出そうとする心細さが感じられる。
一人じゃ辛い船出の直前にヤンクの目に映った黒服の女性は、はたして誰だったんだろう。天使か悪魔か、はたまた船の化身か。
ヤンクの死と共に晴れる、船を包み込んでいた濃い霧。なんだか味わい深い作品なんである。

・あらすじ・
カーディフへ向かう船の水夫部屋。
霧が濃い夜の航海。
水夫たちがガヤガヤと騒ぐ中、身動きをせずに横になっている水夫・ヤンクの姿。
と、その親友らしき水夫・ドリスコルが騒ぐ水夫たちに告げる。
「シーッ!あんまり大声でしゃべらねえがいいぜ。あいつァ、一眠りしようとしてるんだ。」
ヤンクは仕事中に高所から転落し、内臓にかなりの損傷があるらしい。
しかしろくな手当ても出来ないまま航海は進む。
見張番の時間が来て、部屋の水夫たちが一斉に出かけようとする中、ヤンクはドリスコルを呼び止める。
「後生だから、一人ぼっちにしねえでくれ!」

交代を得て帰ってきた2〜3人の水夫は、ベッドに着くなり鼾をかき始める。

ヤンクを励ますドリスコル。そこへ船長がやってきてヤンクの病状を見るが、お手上げといった様子で帰っていく。
意識が朦朧とし始め、走馬灯のように今までの航海の想い出を振り返るヤンク。
過去に港で喧嘩の末に人を刺した事を懺悔するヤンクにドリスコルは励ましの言葉を投げかける。

やがて、宙を見つめヤンクは呟く。
「ありゃ誰だ?黒い服をきた綺麗な女の人だ。」
その言葉を最後に息を引き取るヤンク。
水夫の一人が部屋に戻ってきて告げる。
「霧が晴れたぞ。」
幕。

・収録・
『長い帰りの船路』/ユージーン・オニール 作/井上宗次、石田英二 訳/新潮社(新潮文庫) 昭和31年