『象』
作 別役実
初演 1962年

男と、彼の叔父である、背中に被爆痕のある病人とを中心に描かれる作品。場面は病院であることがほとんど。
全体を通して、目に見えない「死」というものの匂いがする。
長い台詞が頻繁に登場する。特に冒頭とラストの男の台詞は印象深い。




第一幕
一場
男が病人の見舞いに来る。共に被爆者のようだ。
病人は背中のケロイドを人に見せるという活動をしていたが、体調を崩した様子。

二場
途中何度か暗転による時間経過がある。
最初はおにぎりの食べ方のシーン。別役作品の食事は本当に面白い。
後の数場面は病人の体調の悪化をほのかに匂わせる。微かに死の匂い。
ラストは病人のケロイドに触りたがった少女の生死を巡る話。

第二幕
よくわからない感じだが、この幕全体を通して、死の匂いがする。
病人にとって、男にとって、病室に留まることは、あの町へ行くことは何を意味するのだろう。
今まで読んだ別役作品では見たこともなかった長台詞がしばしば登場する。
捉え所がないが、確実に何かのこもった、重たい台詞が多い。

第三幕
「あの町」へ行って背中の被爆痕を見せようとする病人と、それを何とかして止め、静かに暮らしていく事を勧めようとする男。次第に口論が激しくなる二人。
病人がどうしても行こうとするのを、力づくで止めようとする男は…。



『別役実 一 壊れた風景/象』/別役実著/2007年 早川書房 ハヤカワ演劇文庫
に収録。